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冷凍睡眠以後の人たち

   2016年9月8日  

「冷凍睡眠技術が完成した」、某国の研究者にしてベンチャー企業の社長であるアルフレッド・ギョームは、各国の新聞や雑誌の広告欄を使って、その事実を大々的に宣伝すると同時に、被験者を募集した。

モニター費用が法外だったこともあり、ほとんどの人は参加できなかったが、それでも、健康に不安を抱える各国のVIPや、敵対勢力に追われる政治的指導者などから申し込みが殺到した。

ギョームの狙いは純粋な科学の進歩ではなく、資産と権力を有する人々の生殺与奪を握り、自らもその座につくことだったので計画は成功に思われた。

しかし、参加した中にマフィアの大親分がおり、彼が予めギョームの家族や親戚、友人や恋人までをも拘束するという手を打ったため、実験は邪念なく行い、成功させざるを得なかった。

その結果、冷凍睡眠の技術はすでに完成しており、大々的に普及させることが可能という事実が社会に知れ渡ることになった。

都合良く時間の流れを操って問題を解決してしまえるというこの技術、需要は極めて巨大だった。

各国の市民は先を争って冷凍睡眠を活用しようと試みるのだったが……

 

「世界の皆さん、冷凍睡眠技術が完成しました。これで我々は、時間を味方にすることができます」
 二十一世紀も半ばに入りかけたある日、世界中の新聞や雑誌の広告欄に、その一文が掲載された。
 短いが自信に満ちた文章を世に送り出したのは、アルフレッド・ギョーム。二十代にして某国科学アカデミーの主任研究官にまで至り、同時にベンチャー企業の社長をもつとめる天才研究者である。常に夢想癖があり、大言壮語の止めないのが難点とされてきた彼だが、こと研究に関しては信用できるタイプのプロだったために、ギョームが大金をはたいてヨタ話を喋っていると認識した人間はほとんどいなかった。
 加えて、彼の述べたSFチックな技術、「冷凍睡眠」というものについても、過去の多くの優れた小説や映画などから、人々が知識を得てきたことも大きかった。
 冷凍睡眠。ごくごく平たく言って、対象者を凍結、あるいは超低体温状態にまで冷やすことで、細胞の分裂や代謝を防ぎ、歳を取らないまま時間を経過させようというシステムである。
 この方法を用いることで、現代医学では手の施しようのない難病や肉体的、精神的ダメージに対処することができる。
 科学が進歩したらその時点で処置し、対処できるようになった時点で目覚めて貰えばいいわけである。
 他にも、汚染や災害に強いといったメリットもある。長年にわたる管理といった問題も少なくないが、やはり「夢の技術」には違いない。自分が抱えている深刻な問題が、寝ているだけで解決してしまうというのだから、今までの技術とは明らかに一線を画している。
 そしてそれを完成させたと言っているのが、無名の人間ではなく、天才と名高いギョームだという事実は、世界中の人を熱狂させるには十分過ぎる要素だったが、すぐにその熱気は冷めることになった。
 冷凍睡眠実験に参加するためのモニター料が、法外なほどに高かったからである。
 ギョーム側からの「実験施設もまだ試作段階で、あらゆる部分が量産化できていない。だからこの値段なんだ」というコメントは理由とすれば納得がいくものだったが、実験を受けられない、成功するかも分からないとなれば、多くの人が距離を置くのもまた当然だった。
 もっとも、社会の表面的な反応とはまた別に、変わらぬ熱視線を送っていた人間も少なくなかった。
 莫大な資産を個人所有する大富豪たちや、秘密裏に国庫からいくらでも資金を引っ張ることができるごく一部の権力者、私財をはたいてでも「先」の技術を自ら味わいたいと願う裕福な夢想家たちが、ギョームのもとに連絡を入れ続けた。
 彼らの中には難病を抱えていたり、自然死が迫っていたり、政敵からの強烈な迫害を受けていたりといった切羽詰まった事情を持つ者が少なくなく、事の真偽や成否に自信が持てない状況でもすがらざるを得ない部分があった。
 各人が秘密裏に行った参加交渉は、あたかもオークションのような様相を呈し、結局、より高額な参加料を提示した五十人が第一次被験者として選抜されることになった。

 

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