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SF・ファンタジー・ホラー

幻異綺譚<5> 約束

   

 約束を守る、これは、幻異の世界でも大切な事です。
 もし、ダブルブッキングしたら?
 謝るしかありませんな。
 幻異の世界で、謝って済むかどうかは、分かりませんが。

 

 その日は平日であった。
 そのためなのだろうが、上野公園には人影が少なかった。
 地元の老人が数人、座っている。
 音大の学生とおぼしき若者が、三々五々、歩いている。
 それだけであった。
 生島守夫は、不忍池へと下りていった。
 池の畔も、やはり、人が少ない。
 所在無げな老人がいるだけであった。
 みやげ物屋も閑散としている。
 あのときは、人また人で混雑していたのに……。
 なにしろ、修学旅行の団体が、複数、集まっていたのだ……。
 生島守夫は、約束の場所を探した。
 池が、ちょうど曲がっている所――。
 上野の森を左に見て、右手に道路が見える所――。
 それが約束の場所であった。
 そこのベンチに座り、周囲を見回す。
 3つ先のベンチに老人が座っており、それ以外には人が見えなかった。
 懐かしい……。
 上野の森は、10年前と同じである。
 だが、右手の道路の方は、激変していた。
 マンションが林立しているのだ。
 時代はどんどん変わっている。
 だが、変わらないものもある……。
 変わらない、というよりも、変えてはならない……。
 生島守夫は、感傷に浸っていた。
 そんな年でもないのだが。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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