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幻異綺譚<6> 穴

   

 ホテルの部屋のドアには、小さな穴が開いていて、広角レンズをはめ込んでありますよね。
 あれ、怖いと思いません?
 深夜にノックされ、こんな時間に一体誰だ、と穴から覗いたら……。

 

 それは、木田哲雄が小学校5年生のときであった。
 理科準備室の壁に、小さな穴を発見したのである。
 なにせ古い校舎なので、壁に、穴くらいは開いているのだ。
 木田哲雄は、気にも留めなかった。
 穴が重要な意味を持ったのは、1年後の事である。
 順次、校舎を建て直すことになり、女子更衣室が壊された。
 臨時の女子更衣室になったのは音楽室。
 理科準備室の隣である。
「おい、いいものを見せてやるぞ」
 木田哲雄は、遊び仲間の海野健一と白石順司をさそった。
 穴から覗くと、その向こうでは、女の子達が着替えをしている。
 小学6年生の3人にとって、それは、とてつもなく興奮する光景であった。
「すごい、至福の光景だ」と海野健一が、生唾を飲み込んだ。
 木田哲雄が、海野健一の肩をたたいた。
「健ちゃん、難しい言葉を知っているね。小説家になれるよ」
 白石順司は、穴に目を当てようとして、壁に顔をこすりつけながら、唸った。
「どうも見にくいなぁ。よし」
 次の日、白石順司は、細い筒を持ってきた。
 自作の望遠鏡であった。
 これを穴の中へ通せば、はっきりと見える。
 3人は、交互に、女の子達の着替えを見た。
 見るのは交互である。
「おい、そろそろ交代しろよ」
「もう少し」
 こうした会話が続いた後、海野健一が提案した。
「どうも面倒だな。いっそのこと、穴に入ろうや」
「あ、そうか」
 なぜそれに気が付かなかったのだろうか――。
 3人は、穴に入り、心ゆくまで堪能した。
 木田哲雄は、感歎した。
「穴に入るなんて、健ちゃん、よく思いついたね」
「難しい言葉を知っていて、とっぴな発想が出来る。SF作家になりなよ」と、白石順司。
「順ちゃんは、望遠鏡を作った。天文学者かな」と、海野健一が応じた。
「僕は?」と、木田哲雄が聞いた。
 白石順司と海野健一は、顔を見合わせた。
「哲ちゃんは、覗きの場所を見付ける才能がある。痴漢になれるよ」

 

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