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魅舞唄師1〜唄を捧ぐおとぎ話5〜

   

 魅舞師試験当日。
 朝早くにアルレイナの父・クアルが尋ねてきた。
「お前に渡したいものがあるんだ」

 そして、魅舞師試験が始まる……。

 

 魅舞師試験当日の早朝、ウラール院の外れにある一棟。
 見習い達が住まう寮のアルレイナの部屋の前で、少年の声が響いていた。
 ドンドンドン!
「おい!これでも起きないのか!?お前が起きないと僕は戸を叩くのを止めないんだぞ!?近所迷惑も甚だしいとは思わないのか!?」
「お前が言うなーーー!」
 怒りの叫びと共に戸が勢い良く開け放たれる。
 いきなり開いた戸に、したたかに顔面を打ち付けたユウは、顔を押さえてうめいた。
「くっ……この、アルレイナめ……僕の美しい鼻が曲がったらどうしてくれるんだ」
「自分で美しいとか言ってるような人の鼻なら、少しぐらい曲がった方が味のある顔になるんじゃない?それはいいとして……まったく、朝からうるさいのよ。大体ユウ、何で男の貴方が女子寮にいるのよ?寮長に止められなかったの?」
 アルレイナはまったく悪びれもなく問い詰めると、ユウは自信満々に答えた。
「親の権力をカサにして入れて貰ったのだ!」
 臆面もなく言ってのけるその様はいっそ清々しい。
「自慢気に言う事じゃないわね……」
 呆れて突っ込む気すら起きない。
「それより何か用があるんじゃないの?いくら貴方でも用もなく来たりはしないでしょう?」
「当たり前だ。そのくらいはわきまえている」
(わきまえているなら朝っぱらから近所迷惑な真似はやめてほしいわ……)
 もう、色々と突っ込み所満載だ……。
 呆れるアルレイナに気づくこともなく、ユウは変わらず横柄な態度で続けた。
「クアル様が来ているぞ。待合室でお前を待っている」
「お父様が?」
 これには本当に驚いた。
 何時でも忙しく、昔からなかなか家に帰ってくることも無かった父。
 そんな父がこんな早朝にどうしたというのだろうか。
「兎に角早く着替えて行ってやれ」
 そのユウの言葉にはっとする。
 早朝に起こされた怒りで、言われるまで忘れていた。
 アルレイナは今、寝巻き姿である。
「っっっ!!」
 あまりの恥ずかしさに悲鳴が喉元で止まった。
「おい、どうした?早く着替えろと言っているだろう?」
 そう言って、ユウが部屋の中へと促すようにアルレイナの肩を掴んだ瞬間。
 ばしぃん!
 アルレイナはユウの頬をひっぱたいた。
 そしてユウが何か言い出す前に部屋へと引っ込む。
 勢い良く閉めた戸を、一呼吸おいてからまたユウが叩いた。
「アルレイナ!!お前二度にわたってなんてことを!?この暴力女!!」
「うるさい!元はと言えばあんたが悪いんだから!」
 その後数分間、クアルが待っていることも忘れ、扉ごしに二人は言い争たのだった。

 

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