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歴史・時代

大正恋夢譚 〜花水木〜 <後>

   

「ボクが自分で考えた、ボクの理想の『姉さま』なんだ。ボク、きょうだいがないからさ……こういう、きれいでかわいくて、兄さまみたいに元気な姉さまがいたらいいなって思って」

小説版『東京探偵小町』外伝
―紫月蒼馬&逸見兄弟―

Illustration:Dite

 

「うっわ、紫月センセイって女みたいな顔してるくせに、にらむとおっかないんだ」
 級長がクスリと笑って言う。
 カッとアタマに血が上るのがわかった。
「アンタ、ボクを侮辱する気?」
「まさか。一組のみんなが気にしてるから、これも級長の務めってことで、俺が代表して聞きに来てやっただけだよ。ねえ、それってさあ、殴った相手がかの有名な天才少年挿絵画家だとは露知らず、慌てて病院に連れてったとか、そんなとこ?」
「アンタには関係ないだろ。答える義理なんかないね」
「そりゃまあ、そうだけど。でも、紫月センセイは学校にも満足に来られないようなヒヨワちゃんなんだから、あんな乱暴者とは付き合わないほうが身のためなんじゃないの?」
 なんて言い返したらいいのかわからなくて、ただ、くちびるを噛み締める。級長はそんなボクを面白そうに眺めて、からかうように、ボクのまわりをくるっと一周した。
「成績はいいみたいだけど、いつ見ても包帯だらけで、気味が悪いんだよ、あの外国人。ゾッとするね」
「怪我人を見て、気味が悪いなんて言うなよ。包帯を巻いてるってことは、怪我をしてるってことじゃないか」
「へえ、妙にあいつの肩を持つんだね。どうせあの怪我、自業自得だよ。大して強くもないくせに突っかかって行くから、返り討ちにあってるんじゃないの? いい気味だね」
 逸見先輩がそこまで悪く言われていることに、ボクは大きな衝撃を受けていた。逸見先生の、「あれはまだ躾が行き届いていない」という冷たい言葉がまた胸に蘇ってきて、どうしたらいいのかわからないくらい悔しくなる。
「別に俺たちだけじゃなくて、学校中のみんながそう言ってるよ。『狂犬リヒトだ、そら逃げろ』ってね。ほーんと、三年級に美術の授業がなくて良かったねえ。じゃあね、途中でぶっ倒れたりしないように、気をつけて帰りなよ。紫月センセイ」
 忠告のつもりなのか、それともただの意地悪なのか。
 級長は言いたいことだけ言うと、さっさと行ってしまった。残されたボクは、廊下に立ちすくんで、その後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。

 狂犬リヒト。
 どうして逸見先輩が、そんなひどいあだ名で呼ばれなくちゃいけないんだろう。考えれば考えるほど腹が立ってきて、ボクは帰るに帰れなくなった。

「そんなの、ウソだ」
 廊下の窓から身を乗り出すようにして、三年級の教室があるほうに目をやる。もちろん、逸見先輩の姿はどこにも見当たらない。
(ようし)
 ボクは足早に階段を下りながら、鞄のなかから、これだけはいつも持ち歩いている、小さな画帳と色鉛筆の束を取り出した。それを手に、正門から少し離れたところにある築山に向かう。校庭と中庭はどこもかしこも生徒だらけだったけど、幸い、こっちのほうには誰もいなかった。

 

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