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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season14-12 END

   

 羽住はこれまでの人生において落胆していた。ちょっとした心の隙間に魔がさした。

 アルバイト先のレジの金を盗んだ。ただ盗むだけでは、自分に疑いがかかる。もともと悪知恵が働く羽住はほかの店員になすりつける策を練った。

 するとやはりほかの店員に疑いがかかった。自分は高みでその光景をあざ笑っていた。

 これがたまらなく快感になり、繰り返すようになった。

 そして、怪盗レオパルドが完成されたのだ。

 御影にそんな話をしていると、ベランダから水桐が現れた。少々話し過ぎたことに後悔していた。いや、熱くなってしまったのだ。いっきに分が悪くなったのは羽住だ。

 大地の身を案じていた御影は、水桐とアイコンタクトでこの状況を好転させようとしていた。

 そしてついに怪盗レオパルドとの対決に決着のとき。

「第十四シリーズ完結」

 

 面白くもない日常に飽きて、アルバイト先のレジの金を盗んだ。ちょっと魔がさしただけのことだが、自分に疑いがかかるのはいやだった。

 バレないように工夫した。同じアルバイト店員のだれかに罪をなすりつけた。

 羽住がバレることはなかった。もともと悪知恵の種が埋まっていた羽住の脳内に、そのちょっとした魔が水を注いだ。

 実りが咲くのは速かった。あっというまだった。

 羽住は盗みに関しての知識やスキルを独学で学び、吸収していった。

 爆弾の作り方も独自で制作していた。逃げるための脅しのようなものだった。

 そしてマジシャンのようなトリック、フェイクを用いることで、さらに怪盗レオパルドの正体を見破れない。警察も欺けるほど、そのスキルは盗みのプロフェッショナルとなった。

 アルバイトのとき初めて現金を盗み、他人に罪を背負わせた。

 真相をしっているのは自分だけ、その高みにいるような感覚、優越感に浸れる快感がたまらなく忘れられない。

 だから策を練り、操り人形たちにすべてを与え、実行してもらう。高みでそのシナリオどおりにエンディングが迎えられるか、それを監督しているのが羽住 神流だった。

「じゃぁ、なぜ、今回は自ら表舞台に出てきた?」御影は当然の疑問を投げる。

「そうね、たしかに…、偶然だった。府和として車を運転していたときに、大地さんを見かけた。栗原が逮捕されて、似ている大地さんが欲しくなったの。わたしにも似ているし、これを利用しない手はない。しかも彼女に成り代わって探偵社に侵入する」

「それが目的だったのか?」御影はにらんだ。

「わたしの計画を狂わした唯一の汚点、ささいな汚点かもしれない。でもわたしにとってはそのささいな汚点のおかげで痺れるような快感が体の中に流れなかった。いつもなら全身でのたうちまわるほどの快感で痺れるというのに、それが達せられていないせいでこみあげてこなかった。それは屈辱だった」

「なにをいっている…、結局は自己満足なわがままなことだろ。そんなことで大地さんを苦しめたわけだ、ぜったいに許さないからな」御影はにらみつけた。先手をとって羽住を打破するつもりだ。

 羽住は笑ってみせた。「あなたにできて?」

 御影は躊躇している。背後には拘束されている本物の大地がいるのはわかっている。でも眼前にも大地に変装している怪盗レオパルドこと羽住がいやらしく笑みを浮かべていた。

 女であるいじょうこぶしは握れない。

「弱みにつけこむのがうまいな、泥棒猫…」御影は精いっぱいの抗いを言葉で言い放った。

 しかし、思わぬ効果がでた。

「だれが泥棒猫って? わたしは豹、怪盗レオパルドよ。野良猫のような貧弱な存在じゃない!」怒鳴り散らした羽住の豹変する顔つきは、女豹だった。

 御影はその迫力に思わず退いた。

「ニャーニャーうるさいわね」

 そこにベランダから水桐が現れた。

「水桐さん、きてくれたの…」

「いつまでも扉が開かないから表の男たちが心配してたわよ」にたつく水桐だった。

 御影も安堵した。分が悪くなったのは羽住だからだ。

「少々、話し過ぎたわね。時間稼ぎだったわけ? まったく…」羽住は悔しそうに唇を噛んだ。

「そう、あなたもしかして、ベランダから逃げるつもりだったわけ?」水桐がいった。

「そうか、飛び降りても助かる運動神経があると、やっぱり泥棒猫だな」御影は揶揄した。

 羽住は御影をにらんだ。水桐にも注視しなければならない。袋のネズミになった怪盗レオパルド。これを打破できるすべはない。

 女同士なら手加減なく撃退できる。注意をそらすように御影は攻撃を仕掛けようとして退く。その隙を水桐が羽住を捕らえる。

 この作戦は一瞬のアイコンタクトで成立していた。

 見つめ合った水桐と御影。

 御影が飛びかかる。羽住は身構えた。しかし御影は踏みとどまる。

 それは御影が仕掛けた単純なフェイク。スポーツならフェイントだろう。

 ゴールを決めるのは水桐にアシストした。

 水桐は、前方の御影に気をとられているところを死角から羽住を襲う。

 一瞬のことだがこれで水桐に分がある。

「運動神経はあるようだけど、体術はそこまでないようね」水桐は羽交い絞めにして羽住の動きを全身で封じた。力のかぎりしめあげた。

 脱力感に浸る御影だった。「ナイッシュー」

 

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