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パーフェクトキャラジェネレーター

   

人気作家として小説、漫画の原作、そしてドラマの脚本と、文字での創作であれば何でもこなす、石浦 小太郎には、人には言えない「秘密の武器」があった。

それは、「パーフェクトキャラジェネレーター」。石浦に送られてきたCD―ROMの中に搭載されていたソフトで、年齢や性別、身体的特徴を入力すると、任意のキャラが作り出せる。

それだけでなく、3DCGから萌え系まで、キャラに即した絵柄を自在に選択でき、性格設定に合わせて色々なシチュエーションに沿ったセリフを出力してくれるというすぐれ物で、自力ではほとんどキャラの書き分けができなかった石浦を、人気作家にまで引き上げてくれるだけの威力があった。

極端な話、シナリオの内容が月並み以下でも、魅力的なキャラとジェネレーターの力があれば十二分に形になった。

うだつの上がらなかった石浦は一躍人気作家となり、ソフトの力に頼り切ることで過密とも言える執筆スケジュールをこなし続け、ますますその名声を確固たるものにしていった。

しかし、青年向け漫画雑誌に連載されている、石浦が原作した女性怪盗ものの「竜崎教授またはレディ・スネークの成功譚」という漫画が原因で、石浦たちは電話で呼び出しを食らうことになる……

 

「それで、彼らはですね、人間に目をつけるわけです。彼らは計算は得意だったものの、予測、想像して新しいものを作り出せるという能力がなかったから、拝借しようと思ったんですよ。だから、劇作教室に生徒として紛れ込んで、人の脳から想像を吸い取るんです。同時に、仲間として接することで思考の方向をコントロールするようなこともしてきます。もっとも利益の望める想像を、自分たちの技術で再現するために。そして最後には人間特有の想像力、創作力さえも手中に収める。我々が経験するど忘れは、宇宙人が関係していたし、議論の結論さえ、彼らに誘導されたものに過ぎなかったのかも知れないということですね。どうっすかね、この話……」
 午前四時、始発電車が走り始めるまでまだ三十分以上ある駅近くのファミレスに、若い編集者、田坂の熱っぽい声が響いていた。
 眠そうにしている店員を除けば、店内にも店外にも人気はまったくない。
 だからこそ、作家と編集者が打ち合わせをするには最適な状況だと言える。
 田坂に限らず多くの出版社の人間が打ち合わせ拠点として重宝しているのも頷ける。
「色々言いたいところはありますが……」
 今年で四十歳になる石浦 小太郎は、カップの中のやや冷めたコーヒーを飲み干してから声を発した。
「まず、キャラの書き分けが大変ですね。同じ目的で同じところからやってきたってのはいいとして、『真の姿』を凝った造形にするとそこで紙面を食ってしまうし、人に化けてるってことにすると、インパクトに欠けてしまう。細かな差異を描写するのは神経も使いますでしょうし」
「ううっ」
「劇作教室っていう舞台も疑問ですね。創作を志す若者の豊かな想像力に目を付けるのはいいとして、そうした学校に通うってことは当然、授業をこなさなくちゃいけない。想像を形にできない宇宙人がどうやって、課題をクリアーしていくのかってことです。まさか相手の目の前で盗んだアイディアを披露するわけにもいかないでしょう。だったら、シナリオライターの近くに住むとか居候になるとかの設定の方がいい。ただその場合、色々な年齢層のキャラを書き分けて動かすってことをしないと面白みはでませんね」
「うはあ……、やっぱり難しいですか。ま、そうでしょうね。そう簡単には……」
 田坂は軽く首を捻るようにしてから、表情をぱっと真顔に戻した。
 生業も目標もある身、どうしても小説の世界に入りたいというわけではないらしい。
 もっとも、それぐらいの方が石浦からすればありがたい。
 仕事が増えてきたとは言え、新人の頃から知っている人間相手でなければ言えないこともある。
「とりあえずは、学園モノを書くことですな。主要な登場人物は皆同年代、性別だって同じかも知れず、部活なりの目標設定もしやすい。画一的な造形が認められる中だからこそ、独創的な味付けができるというものです。その分、競争相手は多いですが。……確認ですが、原稿の方は大丈夫?」
「はっ、はい。もちろん、手直しの必要はありませんよ。来月の十五日には書店に出ると思います」
 満足気に頷いてから石浦は席を立った。
 今日ここに来たのは、編集者の悩みに付き合ってやるためではなく、あくまで仕事がメインである。
 データを紙に起こした原稿を直接渡そうと思ったのが、時間を食う形になってしまった。
 気心の知れた仲間との語らいは楽しいが、よそからの締め切りが詰まってもいる。
 アイディアは出来ているので後はタイプするだけだが、とにかく仕事を済ませねばならない。
「田坂さんも気長に十年ぐらい取り組んでみることですな」
 そう言い残して、石浦は店から出て行った。

 

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