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辛島と和島(前)

   

絶海の孤島に浮かぶ辛島つらしま。外界との一切の連絡と情報は完全に遮断されたこの島では、様々な事情から集められた労働者たちが過酷な労働を強いられていた。

とりわけ、低ランクに指定された労働者たちは、創造性もなければ有用性も見い出せないというまったくの徒労を延々と繰り返さざるを得ず、逆らえば管理者たちに「処分」されるという恐るべき抑圧の中、必死で命をつないでいた。

一応報酬はあったものの、島内通貨である「ツラシ」では、ろくなものが買えず、特に低ランク者は、いくら金を溜め込んでもまるで使い道がなかった。

ランクCの労働者が集う班のリーダーである倉井と藤原は、新入りで若く、ひときわきつい重労働を課せられていた高杉をかばおうとしたがうまくいかず、逆に管理者の杉橋に目をつけられてしまった。

どうにもならないと感じた倉井は、かねてから計画していた島からの脱走を決意する。行き先は、隣にある和島なごみとう。辛島と同じように労働者を集めているにも関わらず、まったく悪評が聞こえて来ない島である。本土からは追い出された身、今更戻るのは難しいが、充実した人生を送りたいとの思いはまだ残っていた。

脱走のための相談を倉井と藤原がしていたところに、高杉が入ってきた。彼は実に深刻な表情をしており、倉井たちを見るなり泣き出してしまったのだが……

 

「休憩終了、休憩時間終了、ランクC以下の労働者たちは速やかに仕事に戻れ。繰り返す。ランクC以下は速やかに作業を再開せよ……」
 重厚で、人間味のない声がスピーカーを通じ、作業員たちの耳に響いてきた。
 床に座り込んでいた倉井と藤原も、動き出す人波にならうように立ち上がり、作業台のスイッチを入れた。
 だが、その表情は冴えない。
 人の心理をまったく汲まず、倉井のエリアのコンベアが起動し、たまっている材料をゆっくりと流し始める。
 ベルトラインに乗っているのは直径二十センチほどのプラスチックカバーと筆軸、そして小さな部品たちである。
 こうした部品を組み立て、ボールペンの基幹部分を作るのが、倉井に課せられた仕事だった。
 今日だけで、何本仕上げているのかも覚えていないぐらいだが、動きの染み付いた手足は考えるよりも先に材料を商品にしてくれる。
「おい、聞いたか。今日、八時間の超勤らしいぞ。定時に上がれるかもって職長の言葉、ありゃ何だったんだろうな」
 倉井と向かい合う形で作業をしている藤原の声が届いた。
 声量も唇の動きもごくわずかだが、倉井は見落とすことはなかった。
 機械が動く喧騒の中に響くほんの小さなささやきでも絶対に認知するのは、この工場で働いている人間に備わった習性のようなものである。
「寝言だろう。上にかけあっても無給残業の枠っきゃ取れないような奴の言葉をまともに受け取るだけ損だぞ」
 倉井の声も、藤原に負けず劣らず静かだった。だが、向かい合ういくつもの作業台から沸く舌打ちを食い止めることはできなかった。
「十六時間働いて、報酬がたったの百ツラシなんてな、笑える話だ」
「これじゃあ夕飯にジュースを添えるのが精一杯だな。まあ、ランクCオレンジで我慢できるならってとこだが」
「役にも立たねえ道具を作って、ランクCオレンジジュース一杯じゃしょうがねえ。早退した方が得だぞ」
 同僚の軽口には、八割ほどヤケと自虐が含まれていることに倉井は気付いていた。
 だが、どうにもならない。ここ一月の平均労働時間は短めに見積もっても一日あたり十五時間を超えている。
 やっていることは誰にでもできるような簡単な組み立てやチェックであり、叱責されることはあっても褒められることはない。
 基本的に休日も設定されておらず、運良く休めたとしても娯楽や余暇には決して使えない。買い物さえ、倉井たちのランクでは満足にできないのである。
 そうした状況にあっては、仕事への不満だけが共通の話題となるのもむしろ当然だったかも知れない。

 

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