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エリカの花言葉 第2話 ヘンルーダ《軽蔑》 1

   2016年9月28日  

 堀北中学校に入学して三ヶ月が経つと、弘行は不良気質であることから、級友と馴染めずに学校へ来なくなっていた。
 そんな弘行のことを、洋平も自分とは別種の人間であったのだと思い始め関わりを持たなくなるが、その様子を恵里香は不満に思っていた。
 恵里香は弘行が学校に来るようにと動き始めるが、生徒達はそれを望んではいなかった。

 

 中学校に入学してから三ヶ月が経つと、入学時は黒い学蘭とセーラー服の姿で埋まっていた教室が、夏服へ衣替えになり、純白の半袖シャツで白く染まる。
 創立六十年になる古い校舎の教室には、未だにクーラーなど無く、窓際の席に陽炎が見えるほど暑くなる。
 教壇の近くに座る生徒達は汗をかきながら、教科書を開いて次の授業の予習をしているが、後ろの席ではやんちゃな男子がプロレスごっこをしている。
 洒落っ気付いた女子達は、集まってファッション雑誌を見ながら、キャッキャと騒いでいる。
 洋平は友達がいないわけではないが、休み時間にはしゃぐようなことはせず、席に着いて暑さをじっと耐え凌ぐ。
 隣に座る恵里香も、友達がいないわけではないが、話題の雑誌を囲んで甲高い声で笑うようなことはせず、机の上に伏せてぐったりとしている。
「ヨウちゃん、暑い、あついよぉ……」
 この五分以内で、同じ言葉を何度聞いただろうか……後ろの席の弘行と言えば、彼のワイシャツ姿をまだ誰も見たことがない。

 弘行が学校に来なくなってから、今日で二週間になる。三ヶ月前に上級生と騒動を起こした噂は学校中に広まると、弘行のことを一目置いて見る先輩もいたが、生意気な奴だと見られ、絡んでくる先輩もいた。
 そんな弘行のいる教室には、毎日のように先輩達が来るものだから、それまではガヤガヤ、キャッキャと騒がしい教室が、先輩達が来ると子山羊の家に狼が来たように、皆が息を潜める。

「あいつが教室にいるから、不良達が来るんだ……」
 そんな女子達のヒソヒソ話が聞こえた翌日から、弘行は学校に来なくなった。

「ヨウちゃん、あついよぅ……」恵里香が下敷きを団扇代わりにして、パタパタと自分を仰ぐ。
「暑い、暑いうるさいなぁ、余計に暑くなるだろ」洋平も下敷きでバタバタと自分を仰ぎ出すと、恵里香は仰ぎ疲れたのか、再びぐったりとして机に伏せる。
「ヒロ君、何してるのかなぁ」
「さぁ……」
 二ヶ月ほど前になるだろうか、洋平は弘行の自宅を訪れたことがある。六畳一間の畳部屋に、まるで昨日、一昨日に引っ越してきたままのようにダンボール箱が積み重なっていて、そのダンボールの一つがテーブル変わりになっていた。
 空いたダンボール箱から無造作に取り出された洋服が散乱していて、部屋の角に置かれたテレビの上には食べかけの菓子パンと、飲みかけのコーヒーが置いてあった。
 洋平の家は外装こそ古いが、六畳の部屋が二間と狭い台所のスペースがあり、そこまでの窮屈さは感じない。
 そもそも貧乏だとか、訳のある事情で祖母が古いアパートに住んでいるのではなく、祖父が他界して独り身になった祖母が、我が身一人であれば安い賃貸で十分だと考えていただけだった。
 風呂だって、この地域は敬老入浴券が配給されるから、銭湯に通うことで十分であるし、そのほうが憩いの時間になる。
 洋平の母を育てながら、貯金まで蓄えていた祖母の暮らしは、決して貧しい生活というわけではない。
 朝はきちんと白米と味噌汁に一品のおかずが食卓に並ぶし、夕飯だって豪勢ではなくても貧祖ではない。
 洋平の母が作るのは洋食が多く、ハンバーグやロールキャベツは口に合わないと祖母が文句を言う時もあるが、一家全員が菓子パンで食事を済ますようなことはない。
 洋服はきちんとタンスに仕舞ってあるし、食事は卓袱台を囲んで食べる。テレビはきちんと台の上に乗っていて、その横には洋平が小学生の頃の動物園で撮った写真が飾られていた。
 外見は古びた家であっても、玄関を開ければ部屋の中では暖かい暮らしだから、洋平は祖母の家に住むことが恥ずかしいとは口に出せなかった。
 しかし弘行の家は父親と暮らしている痕跡といえば、流し場に置いてある灰皿に煙草の吸殻と酒の空き瓶くらい。インスタントコーヒーの空き瓶に千円札が数枚と小銭が入っていて、弘行は出かけ際に、その瓶から五百円玉を取り出してポケットに入れていた。

 

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