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ラブストーリー

その笑顔の行方は

   

 あ、また笑ってくれた。このCDショップに来るたび、いつもこのお姉さんは笑顔を見せてくれる。しかも、僕だけに。
 少し年上の、栗色の髪がきれいな、アイドル顔のお姉さん。彼女はひょっとして僕のこと、すげぇ興味持ってくれてるんじゃないだろうか。そう考えると、はぁ、胸がズキズキしてくる。なんで、こんなもてない僕に。
 彼女が夢に出てきてくれた日、僕は決意した。デートに誘うおう。ところが勇んで店に行くと、彼女の様子がどこかおかしくて……。

 男子高校生の恋心をユーモラスに綴った、一話完結の物語。18禁のシーンは一切出てきませんのでご了承ください。

 

「なにボーッとしてんだ、コタロー?」

 ヨージに顔を覗き込まれて、僕はハッと我に帰った。
 やべぇ。無意識にカウンターの向こうをじっと見ていたらしい。

 慌てて壁に貼ってある倖田夾未のポスターを指差した。
「あ、いや、あのCD買おうかなぁって」
「え。おまえ、あれ系好きだったの」
 いや、違うんだけどね。

 「いきものがかり」の曲がガンガン流れる店内を、僕たち二人は漂うように徘徊していた。
 僕が誘ったのだ。「帰りにCDショップ寄って行こうぜ」と。

 ヨージは気乗りじゃなかったようだ。悪いことをした。
 今日もフライを取れずに監督から居残りノックを受けて、顔はヘロヘロ、自転車もふらふらなのだ。
 もっとも僕だって、フリーバッティングで打てずに大目玉食らったあげく、素振り100回やらされたけど。

 そんな訳で、AKB48の試聴を終えた奴は、いかにも面倒くさそうな仏頂面を続けている。
「なぁ、コタロー。もう帰ろうぜ、僕飽きたよ」
「ああ、悪い。ちょっとMDだけ買ってくっから」
「ていうかおまえ、部活帰りにいっつも、ここ直行してね?」

 ドキッとした。
 その通りである。ほぼ毎日、僕はなんだかんだと理由をつけてこの店に来ている。

「そんなにCDがチェックしたいかねぇ。着うたで落とせばいいんじゃねぇの?」
 奴のイヤミなんか聞いていなかった。宇田多の新曲に代わったBGMも右から左へ聞き流す。
 僕の意識はひたすら、カウンターの向こうにいる、栗色の髪のお姉さんに向けられていたのだ。

 

-ラブストーリー


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