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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第14話 真名を知る者達

   

笑うことを許してくれる者達がいる。だから、レイシーは己の在る意味を見つけ出す為、前を向くことを決意した。それこそが、自分とルイス、そして周囲を巻き込んだ全ての悪意と戦う『想い』の始まり。

『それだけのことなのに、どうして――――『涙』が出るのだろう』

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

それは、来たるべき時の為に。

 

 
 ある程度の治療は済んだらしい。私はピクシスに支えられながら、ゆっくりと身を起こした。腕と足は固定されている。少し動かしずらいが、特に問題はない。

「傷の手当ては終わりましたが、完治するまではしばらく時間がかかります」
「ありがとう、先生」
「安静になさって下さい」
「はい。あの…立て続けでごめんなさい。兄様の治療もお願い出来る?」
「ええ、お任せ下さい」

 ベッドから降りて扉を開けると、ルイスは今にも飛びついてきそうな勢いで目を見開き、私の固定されていない方の手を取った。

「レ、レイシー! その傷はっ? 腕も足も…何故固定をしている? もしかして、折れていたのか!?」
「王子、落ち着いて下さい。お怪我をされてからかなりの時間が経ってはおりましたが、ひびと骨折以外に目立った異常は見られません。日常生活に支障はないでしょう」

 ピクシスが慌てて、ルイスにそう説明をしたが、彼はそれでも勢いを止めず、その場に崩れ落ちた。私もそんな兄の姿に胸が締めつけられて、唇を噛み締める。

「僕に怪我を隠していたのか!? どうしてッ」
「……痛くなかったから」
「痛いに決まっているだろう!」
「王子」

 ルイスと共に待っていたのは、最初に会った男だった。彼はルイスの肩に手を添え、立ち上がらせると、私に目を向けた。

「ご挨拶が遅れましたことをお許し下さい、姫。私はここの頭領を任されている者。生まれながらに王子と姫にお仕えする『臣下』にございます。ルドウとお呼び下さい」
「臣下……?」

 私がそう疑問を交えて呟くと、ルドウは頷いた。

「……移動しよう。ルドウ、オールとプラインも呼んできてくれ」

 ルイスはそう言って、無言で私を抱き上げようとした。そんな彼をルドウとピクシスが止める。

「こちらに車椅子をご用意してありますので……お次は王子が手当てをお受け下さい」
「そうだよ。兄様も治療を受けて。私、傍で待っているから。ね?」
「…………」
「姫の仰る通りです。あなた様のお怪我もピクシスに診てもらわなければ」

 ルイスは自分の怪我のことを一切考えていないようだった。私以上に疲労を感じているはずなのに。

「ほら。兄様だって、私に辛そうな顔を見せないじゃない」

 そう言い、私はルイスに抱き着いた。
 人前ではあったけれど、ここは城ではない。人目はもう気にしない。そんなものより、私はルイスを優先する。私に残されたのは、もう彼だけだから。

「……さっきは、ごめん。大きな声を出したりして」
「ううん。私も隠しててごめんなさい」
「ねえ、レイシー。僕の名前を呼んで」
「ッ、だ、だめだよ」

 ここは城ではないけれど、私達はそれでも王族だ。人前で真名を呼ぶことなど、許されない。
 だが、私はルイスのその目には逆らえなかった。

「――――
「……うん」

 そう言い、彼は私を抱き締め返すと、そのまま抱きかかえて、車椅子の上に降ろした。そして、シャツを脱いでピクシスへと向き直る。

「手当てを頼めるか?」
「はい。こちらへどうぞ。――――ルドウ。二人を呼びに行くなら、王子と姫の替えの服を用意してきてくれませんか?」
「ああ、わかった」

 

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