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マスターの充電

   

 美佐子への対策を立てなければならないという話になり、週末にホールスタッフのみが集まって食事会をすることになった。
 その会場を決める段階で、マスターがレストランを開けると提案し、全員がマスターの料理のお世話になることになった。

 

 
 願わくばもう来店してほしくないと思っている相手に限って、大体早い段階での再来店してくる。
 世の中そんなものだ。
 だから早い段階で対策を立てることに越したことはないことくらい、全員わかっていた。
「メシでもいくか!」
 こういう時の切り込み隊長は、やはり大和なのだ。
 男子用のスタッフルームで、唐突に明るく声を上げた。
「ホールスタッフだけでさ!この前は男子会だったからかずさんはいなかったろ?マスターも交えたいし、高校生組も参加してもらってサクッと話しちゃってさ!あの…、だれだ?さっきのお客さんの対策をしちゃうのがイイと思うんだわ。諒もその方がすっきりすると思うし、俺たちも動きやすい。どうっすかね?」
 制服を脱ぎ切っていないから、一応まだ業務時間内というのが大和の認識である。
 ほぼ話し言葉だが最後だけうっすらと敬語にするのは、この半端な空間での大和のスタンスである。
「場所をどうするかだな。マスターは忙しいから、時間帯は諒とマスターの都合に合わせる。高校生組は叩き起こせばいいし、俺たちは自力で何とかなるだろ。」
 すました顔で着替えをしつつそういう心治。
 正論だが、なんとかなるかどうかの自信がない。
「俺シンさんちに泊まるから、よろしく!お願いしますわ!」
 こんな時の大和の笑顔は、本当に混じりけのない純粋な笑顔である。
「俺にも都合があるんでな。今週は俺が家に帰らんからほかを当たれ。」
「なに!?噂のあの子んちにお泊り?!」
「うるさい。部屋の掃除に行くだけだ。」
「ヒェー!!リア充め!」
「言葉使いがなってないぞ!」
「残念!俺着替え終わっちゃったもんねー!」
「俺はまだだ!」
「心治君がおそいんじゃないの~?」
「このやろめ!!」
 仲がいいのはいいことだ。
 この二人のやり取りを見ていると、諒の心が和む。
「フフフ。」
 ついうっかり笑ってしまった。
「かわいいよねー、この二人。年甲斐にもなくこうやってケンカしちゃって。」
 悪気はないのだ。
 そう、飛由には全く悪気はない。
 その証拠に、今だって毒を吐きつつ天使のような笑顔で二人を見ているのだ。
「飛由君ってたまに危ないこと言ってる気がする。」
 諒も大概空気は読めないが、飛由の言っていることが若干危険なことは人間の本能として感じずにはいられない。
「そう?」
「よくわかんないけど。」
 この二人はこの二人で、独特のテンポでやり取りしている。

 着替えを終えて更衣室を出て先ほどの旨を和彩に伝えると、表情こそあまり変わらなかったが了承してくれた。
「どこで食べるの?」
 今日来店した客なんかより、どこの店で何を何時に食べるのかが和彩にとっては大事だったりする。
「まだ決めてないけど、どうすっかなー。」
 話し合いを決めたものの、店までは決めていなかった。
 後ろ頭の腕を回して斜め上を眺めながら、うーんと大和はいくつか店を思い浮かべてみていると。
「このお店、開けますよ。食事は僕が出します。どうですか?」
 廊下の向こうから響いてきた声の主は、ほかの誰でもないマスターだった。
 全員の視線がマスターの方へ向き、暗い廊下の向こうからいつもの朗らかな笑顔のマスターが現れた。
「久しぶりに君たちとゆっくり話したかったからね。お昼前には開けておきます。小野寺君のお子さんたちも食べられるものを作っておきますから、連れてきてください。昼はもちろん、長くなるようなら晩ごはんもつくるので。」
 普通の職場ならば、職場の責任者にそんなことをお願いするわけにはいかない。
 しかしここは、ピアノフォルテなのだ。
 慌てふためく諒の後ろ頭を飛由がガシッとわしづかみにして、全員そろってきれいに直角に腰を折り曲げた。
「よろしくおねがいしまーす!」
 行動にそぐわない、きれいにそろった明るい声と嬉しそうににやけたみんなの顔を諒は戸惑いながらちらりと見た。
「仕方ないですねー。作ってあげましょう!」
 とにかくうれしそうなマスターの声。

 ──ここはこうなんだよ!

 飛由はウインクして諒に目でそう語りかけたのだった。

 

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