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立ち枯れ 2

   

柏木は、偏屈な男だった。

他人とかかわるのが鬱陶しく、煩わしい。
自分以外の人間が、みんな酷く愚鈍で馬鹿に見えた。

柏木のエリート意識は、劣等感の裏返しだ。
常に自分より先を行く出来のいい兄が、柏木の精神を歪ませた。

なにをしても兄の二番煎じ、誰も自分に目を向けてくれない。
自分は誰からも期待されていない。
望まれていない。
その思いが、柏木に世界を憎ませた。

だがある日、夢の女、幸恵が現れる。
彼女は、柏木に、白く輝く月を見せてくれた。

 

 中に入ると、店内は外から見たよりもさらに狭く、カウンター席が五席、その後ろに四人掛けのテーブル席が三つしかなかった。ずいぶん寂れた店だなと思いながらカウンター席へ座る。
 足が思うように動かないので、柏木は低い椅子が苦手だった。カウンター席なら座るのも立つのも楽なので、飯屋でもいつもカウンター席に座ることにしている。飯屋の主も慣れたもので、柏木が座る席は、まるで指定席のように、必ず空けておいてくれる。そこがまた気に入っている点だった。
「あら幸恵ちゃん、お客さん? お知り合い?」
「そうよ、今そこで知り合ったの、イカスでしょ?」
 カウンター内から太ったマダムが声をかける。女はニコリと笑いながらそう答え、柏木にウインクを投げてよこした。
「ほんと、二枚目ね、なかなか男前だわ」
「でしょ?」
 マダムと女の白々しい会話は少し引っかかった。
 柏木の家にも鏡くらいはある。毎朝覗き込むが、柏木には自分が二人に言われるようないい男とは映っていない。
 痩せて骨ばった顔。落ち窪んだ目。我ながら骸骨のようだといつも思う。なにより決定的に若さがない。
 二十九といえば、巷ではまだまだ小僧、学生かと見紛うばかりの若者も多いというのに、柏木の顔は四十近くに見えた……見えると、本人は思っていた。
 実のところはそう捨てたものでもなく、彫りの深い柏木の顔立ちは、まるでギリシャ彫刻のようにさえ見える。女たちの言葉も決してお世辞ではないのだ。
 だがそうしたモノはほぼ主観で決まる。周りがどんなに褒めようとも、本人がそう思わなければただの世辞、もしくは慰めだ。
 媚を売る輩は好かない。世辞も同情も慰めも嫌いだ。そんなモノ、精神的拷問にしかならない。だが今夜は無礼な同情的慰めを咎めることはしない。
 月が見えたことで気分は晴れた、それでチャラにしよう。柏木はそう決めていた。

「なに飲む?」
 女にそう聞かれ、柏木はカウンターの奥、太ったマダムの後ろに並べてある酒瓶を眺めた。あまり上品な酒は置いてなさそうだ。気分はダブルだが、一応様子を見る意味で水割りをシングルで頼んだ。
 カランと音を立て、そう大きくないグラスに、透明に輝く大きな氷が踊る。まるで南極に踊る氷河のようだ。クラッシュアイスや四角い氷が多い中、大きく透明な氷を出されたことで、柏木はちょっと店のポリシーに感心した。
 
 

 

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