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ノンジャンル

亜美

   

 元気の塊のようなマスターの娘、越智田亜美。
 彼女の元気さに圧倒される諒。
 二年間のパティシエ武者修行を経て帰ってきた亜美は、このレストランには異色の元気玉だった。

 

 
 美佐子が来店して、数日ほど音沙汰なく平穏な日々が訪れた。
 店内としては平穏そのものだったが、やはり諒はどこか落ち着かないのか笑顔に影がある。
 ミスはしていない。
 しかし明らかに浮足立っていた。

 ―落ち着けといったところで、諒には通用しないだろう。

 わかってはいるが、内心全員ひやひやしているところはあった。
 

 そして訪れた土曜日。
 ランチタイム前に、マスターからホールスタッフに声がかかった。
 ホール内に集まった厨房とホールスタッフたち。
 飛由も滑り込んで全員がそろった。
「皆さんに報告したいことがあります。」
 何だろうかと顔を合わせるスタッフたち。
「どうぞ!!」
 スタッフルームに続く廊下の扉に、マスターが声をかけた。
 すると、キィッと小さな音を立ててドアが開いて。
「おひさー!!!」
 小柄な女性が飛び込んできた。
「亜美ちゃーん!」
 飛由が彼女のもとに飛んで行った。
「帰ってきたかー!ひと声かけてくれれば飯でも行ったのに!」
 大和の声も弾む。
 彼女がだれなのかわかっていないのは諒のみのようで、ほかのスタッフたちは彼女を見てうれしそうに微笑んでいる。
「みんな大人になってるー!うっそー!!私だけかぁ、変わってないの!」
 彼女の元気の良さは、このレストランでは規格外である。
「彼女はパティシエでマスターの娘だ。武者修行に出ていたんだが、どうやら帰ってきたらしい。」
 心治の説明にも諒はついていけず、はぁ…と生返事をするばかりである。
「あ!!」
 彼女の瞳が諒を捕らえ、彼女はらんらんと目を輝かせながらずんずんと諒の方に距離を詰めていく。

 ──うわわわわわ!!!!

 自分と同じくらいの年齢の彼女は、諒に容赦なく歩み寄っていって。
「話は兄貴と父さんから聞いてた!あなたが小野寺君ね?私は越智田亜美!よろしくね!!」
 ニカっと笑って亜美は諒に手を差し伸べた。
「あの、えっと…、よ、よろしく、お願いします…。」
 亜美の勢いに圧倒されてしまって、後ずさりしてしまう諒。
「手!握手!!」
「えっ、…ああ。」
「なに?鈍感?」
「…その、」
「ダイジョーブ大丈夫!鈍感でもね、死にはしないから!ね!!」
「はぁ…」
 完全に亜美の勢いに飲まれてしまった諒。
「亜美ぃ、そんくらいにしとけよ?」
 明広の苦笑交じりのそれに、亜美はハラハラと手を振った。
「あたし、厨房にも出るけどホールにもでるからね!そーんなビビんないでよ!取って食ったりしーなーいーかーらっ!」
 またニッと笑って、亜美は諒の手を放してまた全員の前に出た。
「亜美、ご挨拶しなさい。」
 マスターに促されて、亜美は全員の目を一人ひとり見て嬉しそうににこりと笑った。
「パティシエの越智田亜美です!2年間の武者修行から、無事帰還しました!また明日からよろしくお願いします!!」
 さわやかに頭を下げてパッと顔を上げて。
 2年間で亜美が変わっていないことを、みんなうれしく思うのだった。
 
 

 亜美は宣言通り、翌日のランチタイムにホールスタッフとして顔を出した。
「お願いしまーす!」
 さわやかだが、やはりこのレストランではにぎやかさが際立つ。
「声のトーン、そのままは勘弁してよ。うるさい。」
 和彩の小言にも、亜美は全く屈せずだった。
「かーささんにはかなわないなー。結婚は?」
「結婚したら私はあんたの姉貴になるんだから、しっかりしつけてあげるわよ。」
「ふぇ~!ヤダヤダ!!」
 和彩にさえこの態度である。
 かわいいといえばかわいいが、そのじゃじゃ馬さ加減には諒には刺激が強すぎるようだ。
「そうそう!諒くん!」
 亜美に声をかけられて、諒の肩がびくりと震え上がった。
「い、いませんっ!」
 そういいながら、心治の後ろに隠れてしまった。
「いる!ほらそこ!!」
「い、いません!」
「ほら!」
「いないです!!」
 心治の周りをぐるぐる回る、亜美と諒。
「こら…、お前ら、」
 普段あまりない状況に、心治でさえもペースが乱れている。
「ほらほら!その辺にしてください。」
 マスターの声掛けで、ようやく二人の動きが止まった。

 ──こりゃにぎやかになるな…。

 諒を追い回す亜美と、亜美から逃げる諒。
 弱気な犬と強気な猫の攻防戦が、みんなの脳裏によぎった。
 
 
 
 

 

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