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ファンタジー

マリアベル戦記 第九話 意外な才能 4

   2016年6月24日  

夜会の空気に慣れないリディアは少し困ってしまう。
そんなリディアに見とれてしまうアオイは……

 

 成人すれば嫌でも面倒ごとを引き継がなければならないのだから、放蕩息子で居られるこの時間を大切にしたいところだ。
 大貴族としての自覚が足りない、とか言われることもあるが、そもそも望んで大貴族に生まれた訳ではない。
 これでも最低限の責任は果たしているつもりなのだし、外野にとやかく言われる筋合いはないのだ。
「おー、キメてるな」
 背後から声をかけてきたのはハヅキだった。
 いつもは動きやすさを優先した服装だが、今回はばっちり皇族らしく豪華な衣装に身を包んでいる。
 本人はこういうのを嫌っているのだが、公式の場に出席する以上、皇族として最低限の身なりをしなければならないというルールがあるので仕方がない。
 俺も皇族ではないが、筆頭貴族の総領息子として、ハヅキに負けず劣らずの豪華な衣装を着ている。
 すごく動きにくいが、ハヅキよりもこういう場に出席する回数は多いのでそれなりに慣れている。
「そっちもな」
「動きにくいんだよ、これ……」
 ハヅキが嫌そうに詰め襟を掴んだ。
 やっぱりそういう服は苦手らしい。
 ……皇族の癖に。
「我慢しろよ。セレナティオ家の夜会に出席した以上、適当な格好は許されないからな」
「分かってるって。リディアの晴れ姿を見物する為にも、これぐらいは妥協するさ」
「リディアか……。どんなドレスを着てくるのかな」
「どうだろうな。ハリエッティさんのデザインなら期待大なんだけど」
「やっぱり事前にこっそり見ておけば良かったかな……」
「それだと楽しみが半減するだろうが」
「だよなぁ。でも見たい」
「おいおい……あと少し待てば見られるだろうが」
「覗きにでも行くか?」
「着替えをか!? さすがに泣かれるぞ!」
「泣いた顔も見たいな」
「ドSだなっ!」
「俺も自分にこんな性癖があるなんて知らなかった。というか最近気付いた」
「……好きな子限定で発動するドS属性って……最悪じゃねえか……」
「そうかな」
「自覚無しかよっ!」
「いや、自覚はある。でもハヅキにも好きな子が出来たら同じように考えるかもしれないじゃないか」
「……同じにはなりたくねえな」
「案外、同じ事になりそうな気がする」
「やめろー。俺をドS予備軍に組み込むなー」
「ははは。想像すると少し面白い」
「オレは面白くねえよ」
 むくれるハヅキを横目に、俺はリディアが現れるのを待った。

「あのぉ……」
 楽しみすぎてぼんやりしていたのがいけなかったのだろう。
 いきなり背後から声をかけられた。
 ……背後に近づかれて声をかけられるまで気づかないなんて、戦士としては致命的だ、と密かに落ち込んでしまう。
「リディア?」
 しかし相手がリディアなら微妙に納得だ。
 戦闘技術に磨きのかかったリディアは、最近では無意識で気配を消すことが出来てしまうのだ。
「はい……あの、ドレス着てみたんですけど……」
 純白のドレスに身を包んだリディアが恥ずかしそうにうつむく。
 剣を握っている時の凛々しさはどこにもない。
 今はただ恥ずかしがっているだけの女の子だった。
「へえ~。ハリエッティさん、やるなぁ。しかも純白のドレスって、ちょっと意味深?」
 横にいたハヅキが面白そうにつぶやく。
 ……意味深って言うな。
 確かに意味深だとは思うけど。
 ハリエッティの悪女的思惑を感じなくもないけど。
 悪意というよりは、からかい的な。
 彼女にはそういう悪癖がある。
 メイドに手玉に取られる主、というのも複雑なんだけど、それでも相手がハリエッティなら不快な気持にならないのが複雑なところだ。
 彼女が楽しそうにこちらをからかう所為かもしれない。
 いつも世話になっているのだから、それぐらいのライフワークは許容しなければ、みたいな。
「え? 意味深って?」
 リディアがきょとんと首をかしげている。
「気にしなくていいから」
「え? え?」
 やれやれ、と肩をすくめてからリディアの頭を撫でる。
「うん。ちゃんと似合ってる。さすがはハリエッティだ」
「そ、そうでしょうか……」
「ほら、俯くなよ。堂々としていろ」
「そ、そんなこと言われても……」
 こういう場には慣れていないのかもしれない。
 王女としての役割が必要とされる公式の場ならともかく、人脈づくりや享楽の入り混じったこういう場は、今までとは違った対応が要求されるから当然だけど。
 リディアが慣れていない分、俺たちがエスコートしなければならないのだろう。
「リディアは王女だし、俺が招待した賓客でもある。ここで堂々としていてくれないと俺が困る」
「す、すみません……」
 申し訳なさそうに肩を縮こまらせるリディア。
 ……うーん、小動物みたいだ。

 

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