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ファンタジー

マリアベル戦記 第八話 意外な才能 3

   2016年6月21日  

天然で少年二人を凹ませるリディア。
ほのぼのな日常です。

 

 俺もルヴェラの血に連なる者としてそこそこの魔力量を保有しているつもりだが、大魔力と効率的運用というのは相性が悪いらしく、リディアのような細かい魔力運用は大の苦手だ。
 もちろんハヅキも同様だ。
 魔力が大きいとどうしても細かい運用が苦手になる、というのはほとんどの魔導士に共通していることでもある。
 大鍋に満たされた水をワイングラスに注げ、と言われるようなものだ。
 大魔力がどうしても細かい動作を阻害してしまうのだ。
 無理に小規模運用を行おうとすると、暴発してしまうこともある。
「オレには無理だな」
「ああ。俺にも無理だ」
 だからこそ芸術的な魔力運用をこなしてみせるリディアには素直に尊敬の念を抱いた。

 そして純粋な剣技においても、リディアの才能は抜きん出ていた。
 最初は本当に素人だった。
 動きも、武器の扱いも、ど素人以下だった。
 しかし俺達が扱いを教えていくうちに、身体の動きを最適化させていき、武器の振るい方を最良化させていき、そして最善の戦い方を身につけていったのだ。
 恐ろしいことに、リディアの剣技はほんの数日で俺達に追いついてしまった。
「………………」
「………………」
 リディアとの模擬戦でほとんど相打ちに持って行かれてしまった俺達はそろって凹んでいた。
 打ちのめされていた、といっても過言ではない。
 しばらくはショックで立ち直れないかもしれない。
 二人揃って背中を合わせてお互いに寄りかかり、抜け殻のような表情でぼんやりとしている。
 口からは魂に似たモノが吐き出されている。
 白くてもやもやしているナニかだ。
 そして目は死んでいる。
 死んだ魚のような……いや、市場で売れ残った魚の濁りきった目のようになっているかもしれない。
「ちょ……ちょっと……どうしたんですか?」
 一人だけきょとんとした様子で戸惑っているリディア。
 子供の頃から続けていた俺達の努力を粉砕してくれやがった王女様は、自分が何をしでかしてしまったのかまるで理解していない。
 もちろんリディアが悪いわけではない。
 むしろ頼もしいと感じるのがここは正しい。
 天才だと褒めちぎるのが正解だ。
 しかし、人間はいつも正しい行動が出来るわけではないのだ。
 いつも正解を口に出来るわけではないのだ。
 間違っていると分かっていても、敢えて認めたくない事実というものがこの世界には存在する。
 それが自らのプライドに関わることなら尚更だろう。
 積み重ねた努力は決して自分を裏切らない。
 ああ、確かにその通りだ。
 それはこの上なく正しくて、そして美しい真実だ。
 しかしそれらの理をぶっとばしてしまう天才がこの世界に存在している。
 その切ない存在が目の前にいる。
 それだけならまだしも、その相手が惚れた相手であり、自分がこの手で守りたいと密かに考えていた相手なのだから泣きたくなってくる。
 ハヅキも俺とは少しばかり違う形でショックを受けている。

 

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