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マリアベル戦記 第六話 意外な才能

   2016年6月14日  

リディアいじめに精を出すアオイ。
かなり不器用な少年は今日も楽しかったり、自虐気分に陥ったり。

 

 夜会が開催されるまでにはまだ時間があり、その間に俺達の戦闘訓練などにもリディアが付き合うようになった。
 付き合う、といっても俺達が戦っているのを見学しているだけなのだが。
 俺達の腕はほぼ互角。
 しかしリディアが見ているかと思うと少しばかりいいところを見せたくなる、という雑念がある為、最近は黒星が多くなっている。
 ……いいところを見せようとして格好悪いところばかり見せているので内心はかなり複雑だ。
 ハヅキも協力する、みたいなことを言っていた癖に、俺が見せるそういう隙を絶対に見逃さない。
 むしろ嬉々として突いてくるのだから実に腹立たしい。
 そして今日もハヅキに一本取られてしまうのだった。
「ぐぬぬぬ……」
 悔しくて歯ぎしりする俺を楽しそうに見下ろすハヅキ。
 余裕の態度がかなりムカつく。
 そんな俺達を見てリディアが楽しそうに手を叩いていた。
「二人ともすごく強いですね!」
「俺は負けっ放しだけどなー……」
 凹んだまま少しばかり弱音を吐いてみる。
 こうすればリディアが慰めてくれるかもしれない、という下心はもちろんある。
 弱みを見せるのは嫌いだが、計算ずくで弱みを敢えて見せるのは構わない。
 政治がらみではなく恋愛絡みの計算なのでまだ可愛げがあると言えるだろう。
「でもアオイだってすごいですよ。足捌きとか、ハヅキの剣の受け流しとか、あの少しだけ右側に傾けてから攻めに入るはずだったみたいですけど、ちょっと調子が悪かったみたいですね」
「………………」
「………………」
 リディアのそんな発言に俺達が顔を見合わせる。
 すごい、というだけではない。
 もしかしなくても彼女には俺達の動きが見えているのではないだろうか。
「俺達がどう動いたのか、全部分かったのか?」
 少なくとも素人には無理だ。
 戦闘の経験がないリディアにそんなことが出来るとは思えなかったのだが……
「? はい、ちゃんと全部見えてましたよ。手の動きから足の動きまで」
「………………」
「………………」
 きょとんとした様子のリディアは気付いていない。
 それがどれだけ異常なことなのか。
 戦闘の素人であるにもかかわらず、その動体視力は一流の戦士を越えているのだ。
「凄いのはリディアの方だと思うけどな……」
「同感……」
 俺達は顔を見合わせてから複雑な心境で頷き合った。
「え? え?」
 意味が分かっていないリディアは困惑しているようで、首を傾げている。
 その度に金色の尻尾……もといポニーテイルがゆらゆらと揺れて面白い。
 ハヅキではないが、思わず引っ張りたくなってしまう。
 うずうず……
「ていっ」
「ひゃうっ!?」
 そして引っ張ろうとする。
 最近はリディアに対してかなり打ち解けてきたつもりなので、これぐらいは許されるかな-、とか思ってしまったのだ。
 最初は同じ事をしたハヅキをどつき倒しておいてかなり調子がいいとは思うのだが、そこは見逃してもらいたい。
 好きな女の子にちょっかいを出したいという気持ちは男にとって如何ともしがたい誘惑と共に存在するのだ。
 しかし……
「え……?」
 俺はリディアの金色尻尾を引っ張ることは出来なかった。
 さりげなく伸ばした俺の手を、リディアが何気なく避けてしまったのだ。
 ひょいっと……
「………………」
「………………」
 俺はリディアをじーっと見つめる。
 リディアはそんな俺から気まずそうに視線を逸らそうとする。
「避けた……」
「そりゃあ避けますよぅ」
 当然だ。
 誰だって髪の毛を引っ張られるのは嫌だ。
 しかし避けられれば萌え……じゃなくて燃えるのがいじめっこの神髄なのだ。
 だから俺は諦めたりはしなかった。

 

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