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ファンタジー

マリアベル戦記 第四話 日溜まりの時間 2

   2016年6月7日  

日溜まりの時間、もう少し続きます。

 

 だからこそ聖剣ルヴェリスはヒエンではなくハヅキを選んだ。
 ハヅキ以外の所有者は認められない。
 それはルヴェリス自身が決めたことであり、他の誰にも覆すことはできない厳然たる事実なのだ。

「それがそうもいかないんだよな。あっさりと認めるには母親の身分が低すぎる。貴族ならまだしも、農民の娘だからな」
 当のハヅキが肩を竦めてからリディアの言葉を否定した。
 実際、その通りなのだ。
 貴族の身分を持たない母親から生まれたハヅキは、いくら皇帝の血を引いているといっても後継者としては認められない。
 いや、聖剣に選ばれた以上、皇位継承権は彼にもあるのだが、血統主義の貴族達がそれを認めようとしないのだ。
 しかし兄のヒエンが出来損ないすぎる為、聖剣の所有者であるハヅキを皇帝に、という動きも確かに存在する。
 血統主義ではなく実力主義の官僚貴族たち。
 彼らの支持を得れば、ハヅキが皇帝になることもそう難しくはないだろう。
「それよりもアオイが皇位を継いだ方がよっぽど問題が少なくて済むし」
「やめろ」
 ハヅキがそんなことを言うので問題が更にややこしくなるのだ。
 こいつが皇位を継ぐつもりなら俺は喜んで協力するのに。
 ヒエンにだけは絶対に協力するつもりはないが。
「あ、そういえばアオイも継承争いの参加者でしたよね?」
「一応そういうことになってるけど、でも俺は皇帝になるつもりはないぞ」
「そうなんですか?」
「当たり前だ。セレナティオ公爵家は最も皇家に近い血筋とはいえ、臣下の家系だぞ。俺が皇帝になったらそれこそ皇位簒奪じゃないか」
「あ、それもそうですね……」
 納得したようにぽんと手を叩くリディア。
「それでも血筋の正しさなら俺よりも上じゃないか。セレナティオ公爵家はルヴェラ皇家の血を最も強く受け継いでいるし、母君は皇帝の妹であるイサキ姫だし」
「阿呆。いくら血筋が皇家に近くても、セレナティオ家はあくまでも皇家の臣下なんだよ。俺が皇位についたらお前がそうなる以上に黙っていない奴らが出てくるぞ」
 もとよりそんなつもりはない。
 皇帝なんていう面倒臭い仕事はまっぴらごめんだ。
 筆頭公爵家の総領息子というだけでもかなーり面倒臭いと思っているのに、これ以上余計な仕事を増やされてたまるか。
 俺が継ぐのはルヴェラ皇帝ではなくセレナティオ筆頭公爵家だけで十分だ。
 それすらも弟に譲ってやっても構わないぐらいなのだが、さすがにそれは許されないだろうな。
 弟のキサラはハヅキ同様に妾腹の子供だ。
 降嫁した姫が生んだ子供と、下級貴族の子供とでは立場が違いすぎる。
「なんだか色々難しそうですねぇ……」
「そうなんだよな」
「面倒臭い」
 リディアの言葉に俺達が同時に頷く。
「お前が皇帝になれ」
「やなこった。お前がなれ」
「………………」
「………………」
 権力の象徴であるはずの『皇帝』という地位を、厄介ごとのように押しつけ合う俺達。
 権力志向の貴族達が見ればさぞかし憤慨する光景であろう。
「リディアはどっちが皇帝になるのがいいと思う?」
「え?」
 ハヅキが突然そんな質問をする。
「ええと、どちらでもいいと思いますよ。ハヅキでも、アオイでも。どちらもとてもいい皇帝になってくれそうな気がしますから」
「だってさ、アオイ」
「だとよ、ハヅキ」
「………………」
「………………」
 俺達の間で火花が散った。
 皇帝の座を奪い合う為に火花を散らしているのならそれなりに健全なのだが、押しつけ合う為に火花を散らしているのだからタチが悪い。
「あのー……喧嘩はやめてくださいね……」
「喧嘩なんてしてないよな~」
「そうそう。あくまでも将来のための話し合いだよな~」
「……とてもそうは見えないんですけど」
 呆れ気味にリディアが言うと、今度はクスクスと笑い始める。
 本気で険悪になっているわけではないので、少しだけ微笑ましかったらしい。
「そういえば魔杖エルフィンの方はどうなってるんだ? 法国の方ではもう後継者は決まっているのか?」
 聖剣の話が出たことで魔杖の方にも興味が移ったらしく、ハヅキがそんなことを質問する。
 聖剣の後継者としては魔杖の後継者のことが気になるのだろう。
 しかしリディアは申し訳なさそうに首を横に振った。
「それが……まだ法国ではエルフィンの後継者は決定していないんです。エルフィン自身がまだ誰も選んでいないので……」
「そうなのか?」
「法国にはあれだけ子供がいるのにな……」
 ハヅキを含めて直系の皇族が二人しかいないルヴェラと違い、エイフラムには三十人以上の王族が存在する。
 法王エムリスはよほどお盛んらしい……という噂が流れているが、実際の所は自分の子供に魔杖を継がせたいが為だろう。
 神器の後継者は全ての世代に現れるとは限らない。
 ルヴェラでは運良くハヅキが選ばれたが、エイフラムでは未だに誰も選ばれていないようだ。
 子供の数をあれだけ増やしたのも後継者を生み出したいが為なのだろうが、どれだけ増えたところで結果は変わらない、ということなのかもしれない。
 神器を所有していても使い手が居ないという今の状況は、法国にとってはかなりの弱みになるだろう。
 切り札が使えない以上、迂闊に戦をするわけにもいかない。
 だからこそ不戦協定の人質としてリディアが送られてきた、とも言える。
 魔力に乏しい彼女ならばエルフィンに選ばれる可能性は皆無だろうから。

 

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