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ファンタジー

マリアベル戦記 第三話 日溜まりの時間

   2016年6月3日  

のんびりとした時間を過ごす三人。
少しずつルヴェラ皇国のことを知っていくリディアは、ゆっくりとこの国に馴染んでいった。

 

 それから俺達三人は一緒に過ごすことが多くなった。
 立場上、与えられた屋敷から動けないリディアの為に、俺達が頻繁に屋敷へと通うことになった。
 リディアの屋敷には護衛の兵士が一人も配置されていない。
 法国から一緒にやってきた護衛の兵士は残らず帰還してしまったらしい。
 残されたのは彼女の身の回りの世話を担当するメイドが五人程度だった。
 それも屋敷の管理を行うために必要な人数であり、親身になってリディアの世話をする人たちは誰もいなかった。
 もちろんリディアが望めばメイドの数を増やすことは出来るのだろうが、人質の立場である彼女はそれを自粛していた。
 必要だとも思わなかったらしい。
 それよりも気楽に過ごせる俺達三人との時間を望んでくれていた。
 居間でお茶を楽しむ俺達は、雑談に花を咲かせている。
「つまりさ、今のルヴェラ皇国は結構面倒臭い状況になっているのさ。馬鹿皇子に妾腹皇子、そして由緒正しい血統保証付きの次期筆頭公爵。この三人で皇位継承権争いをしている……ように思われている」
 今日はこの国の事情について説明することにしていた。
 面倒臭い事情に巻き込まれている側としては、少しぐらい愚痴を聞いてもらいたかった、というのもあるかもしれないが、それ以上に国の状況を教えておくことが大切だと思ったのだ。
 今のままでは閉じ込められた人質のままで終わってしまう。
 彼女にそんな歪んだ人生を送ってもらいたくなかった。
 その為にはどうするべきか。
 まずは知るべきだと思ったのだ。
 この国のことを。
 自分のことを。
 そして、何が出来るのかを考えてもらう。
 この国のためではなく、リディアがリディア自身のために出来ることを探してもらいたかった。
「ええと、馬鹿皇子っていうのは、もしかして第一皇子のヒエン様のことですか?」
 紅茶のカップを手に持ちながら、リディアが複雑そうな表情で問いかけてくる。
 嫡子である第一皇子を馬鹿呼ばわりしているのだから当然の反応だろう。
「その通り。我が兄ながら実にふざけた馬鹿でね。あんなのが皇位を継ぐかと思うと、革命の一つでも起こしたくなる」
 それに答えたのは俺ではなく第二皇子のハヅキだった。
 兄であるヒエンを馬鹿呼ばわりして何ら憚るところがないのは俺と同じだ。
「もしかして兄弟仲ってかなり悪いんですか?」
「悪い、ならまだいいんだけどね。兄上は庶民が生んだ弟など皇族とは認めていないようだ。関わることすら避けているし、顔を合わせれば蔑むことぐらいしかしてこない」
「………………」
「自分の生まれを嘆くつもりはないけれどね。今の立場に不満があるわけでもない。勘違いしないでもらいたいのは、革命を起こしたいと思ってはいても、オレが皇帝になりたいとは思っていないんだ」
「え? そうなんですか? でも継承争いはしているんですよね?」
「オレ達が争っているわけじゃない。周りが勝手に盛り上がっているのさ。そうだよな、アオイ?」
「まあなあ。三人とも色々と難しい状況だからなぁ。メリットもデメリットも割合はそんなに変わらないだろうし」
 俺もハヅキの意見には同意しておいた。
「メリットとデメリットについて詳しく訊いても構いませんか?」
「いいよ。まずヒエンについてだ。彼が皇位を継いだ場合のメリットは由緒正しい血筋が保たれること。皇帝と皇妃の血筋だからな。血筋の正しさでは彼が一番なんだ。そしてデメリットは政治能力の低い、馬鹿な皇帝が誕生してしまうこと」
「……馬鹿、なんですか?」
 俺の説明にリディアが遠慮がちに訊いてくる。
「度し難い馬鹿皇子だ」
「………………」
「まあリディアも実際に会ってみれば分かるだろうけど、あんまり会わせたくはないな。間違いなく不快な思いをさせてしまうだろうから」
「そうなんですか?」

 

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