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ファンタジー

マリアベル戦記 第二話 向日葵の王女 2

   2016年5月31日  

少年少女の出会いはちょっぴり照れくさかったり、いじわるだったり、甘酸っぱかったり。
始まりの時はここに。
ささやかな幸せがここにある。

 

「そんなに睨むなよ。現実を理解することは大事なんだぞ。少なくとも現実から目を背けるよりはずっとね」
「………………」
 それも事実なんだろう。
 だけどそれでも目を背けていたいことだってある筈なのだ。
「その分お前が優しくしてやればいいじゃないか」
「む……」
 その意見に従うのは癪なのだが、確かにそうするつもりではあった。
「あ、彼女がそうかな……」
「え?」
 ハヅキが中庭の方に視線を移すと、ぼんやりと立っている少女がいた。
 ポニーテイルに結わえられた綺麗な金髪。
 ふわふわと風に揺られるその髪は、まるで動物の尻尾のようで少しだけ面白かった。
「ど、どっちが声をかける?」
 どうやら彼女はまだこちらに気付いていないようで、ぼんやりと空を見上げている。
 その表情に悲しみや寂しさはなく、ただぼーっとしているように見えた。
「せっかくだからお前が声をかけてみろよ」
「お、俺かよ……?」
「じゃあオレでもいいけど」
「じゃあ任せた」
 人質として送られてきた王女にどう声をかけていいのか、正直分からなかった。
 慰めればいいのか、それとも気にしなければいいのか。
 どちらも違うような気がして、何と言えばいいのか分からないのだ。
 しかしハヅキにそんな迷いはないようで、気負った様子もなくすたすたと王女に近づいていく。
 す、すげえな、ハヅキ。
 他国の王女に対してまったく緊張していない。
 あいつのああいうところは少し羨まし……
「あ……」
 羨ましい……と思いかけたところで、ハヅキの手が王女の髪の毛へと伸びていた。
 気負いなく近づいたと思ったら、今度は遠慮なく彼女の金色尻尾……もといポニーテイルをむんずと掴んでいた。
「よっ! 初めまして、王女様♪」
「ひゃあああああああっ!?」
 髪の毛を引っ張られた王女はそのまま後ろに転けてしまった。
「何をやってるんだお前はーーっ!!」
「いてえっ!」
 無礼すぎる友人の頭を遠慮容赦無くどついておいた。
 羨ましくない。
 ちっとも羨ましくないぞ。
 こんな性格には間違ってもなりたくない。
「うぇ? ふぁ……?」
 尻餅をついたままの王女は涙目のまま混乱している。
「この馬鹿……もとい友人が失礼をした。大丈夫か?」
「あ……はい……」
 驚きで見開かれた黒と金色の瞳が俺を真っ直ぐに見つめてくる。
 闇の色と、輝きの色。
 まったく属性が違うはずなのに、それは定められたかのようにマッチしていた。
 差し伸べた手を握ってくる王女。
 俺は王女の手を引っ張ってからそっと立ち上がらせた。
「初めまして。リディア王女、だよな?」
 酷い目に遭ったばかりの彼女をなるべく刺激しないように、出来るだけ優しく話しかける。
「は、はい。リディア・カナン・エイフラムです」
 彼女こそがエイフラム法国の第十四王女。
 我が国、ルヴェラ神聖皇国と、その隣に位置するエイフラム法国。
 両国の間に結ばれている不戦条約の礎となっている哀れな王女。
「………………」
 しかしそんな哀れな彼女は、向日葵のような笑顔を俺に向けてくれた。
 春の日だまりのような温もりで満たされていく。
「ええと……あの……」
 その笑顔に見とれてしまった俺はしばらく言葉を失っていた。
「なーにデレてるんだよ」
「っ!?」
 そんな俺を正気に戻してくれたのは、ハヅキの一言だった。
「べ、別にデレてなんかっ!」
 見とれてただけで、デレていたつもりはないぞっ!
 そのニヤニヤ笑いをやめろっ!
「いーや、デレてたね。女の子に興味がないと思っていたけど、まさか王女にデレるとはね~」
「違うっつってんだろうがーっ!」
「ふーん、そうか。デレるほどには可愛くないと」
「馬鹿っ! そういう意味でもねえよっ!」
 可愛いか可愛くないかで言えば、リディア王女は間違いなく可愛い。
 けれど俺が見とれてしまったのは可愛いからではない。
 ……いや、可愛いことに間違いはないのだけれど。
 そういう意味ではなく、上手く言えないけれど、あの笑顔に何かを感じてしまったのだ。
「どうでもいいけど握りっぱなしの手をそろそろ離してやったらどうだ?」
「へ?」
 言われて、俺はリディア王女の手を握ったままだということに気付いた。

 

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