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ファンタジー

マリアベル戦記 第一話 向日葵の王女

   2016年5月27日  

二人の少年と、一人の少女。
国を背負った三人の少年少女の友情と恋心が、この世界を少しずつ歪ませていった。

異世界ファンタジーライトノベル、開幕!

 

「エイフラム法国から姫君がやってくるらしいな」
 その日、俺はハヅキと剣術の稽古をしながらその話題を口にしていた。
「そうみたいだな。リディア王女には陛下も兄上もあまり興味が無いらしくて、歓迎の準備もろくに進めていないようだ。正直、不安でもある。これではあまりにも一国の王女に対して失礼なのではないかと」
 俺の一撃を受け止めながらぼやくハヅキ。
 彼は一応このルヴェラ皇国の第二皇子である。
 一応、と付けたのは、ほとんど皇子としての立場を認められていないからだ。
 王妃の生んだ子供である第一皇子ヒエンと違い、ハヅキはたまたま陛下が見初めた侍女の産み落とした妾腹の皇子だ。
 大貴族の出身であるキクカ妃殿下と違い、ハヅキの母は庶民階級である。
 国内の貴族も、兄であるヒエンも、彼を皇子であると認めたくはないようで、ほとんど干渉してこない。
 血統主義が根強いルヴェラ皇国にとって、ハヅキの存在は一つの汚点だと思われているのかもしれない。
 もちろん皇帝であるゲンマ陛下には女性を好きなだけ選ぶ権利がある。
 気に入った女性を後宮に迎えることも出来るし、そのことに関してキクカ妃殿下達に文句を言う権利は無い。
 他にも妾腹の皇子や皇女がいれば話は違ったのだろうが、陛下の血を引いている子供はヒエンとハヅキの二人だけだ。
 これで確執が生じない方がおかしい。
 もっとも、ハヅキ自身は皇位継承権にはまったく興味がないらしく、貴族達からも意図的に無視されている現状を気に入っているようだ。
 そんな名ばかりの皇子と、ルヴェラ皇国筆頭公爵家の次期総領である俺が仲良くしているというのも周りからは理解しがたいものがあるらしく、父や母を初めとして様々な相手から忠告を受けていたりもする。
 穢れた血筋に関わるべきではない、と何度言われたか分からない。
 しかし俺には理解出来ない。
 ハヅキは陛下の血を立派に引いているこの国の皇子だ。
 頭も悪くないし、性格もおおらかで好ましい。
 王としての冷酷さは足りないかもしれないが、俺個人は彼の人格を気に入っている。
 穢れた血筋、というのは庶民階級のことを指しているのだろうが、その民衆からの人望と税金によって王家が支えられていることを忘れるべきではない。
 陛下はまだそれを弁えているようだが、ヒエンは少しばかり怪しい。
 多くの貴族達は民衆を家畜か奴隷程度にしか見ていないのだろうが、彼らにだって人格もあれば尊厳もあるのだ。
 それを蔑ろにすれば、いつか手痛い報いを受けることになる。
 それ以上に、たとえ人質として送られてくるとは言え、一国の王女を蔑ろにするなど許されることではない。
「なら俺達でその王女を歓迎しようか」
 俺がそう言うと、ハヅキは嬉しそうに頷いた。
「そうだな。一人で異国に送られてきて心細い思いをするだろうし、オレ達に出来ることなら何でもしてやろう」
 話に夢中になりすぎていたのが不味かった。
 ハヅキは一息に踏み込んできてから俺に一撃を入れた。
「うおおっ!?」
 考え事をしていた俺は反応が遅れて、脇腹に峰の一撃を食らってしまう。
「いててて……」
 降参、と両手を挙げる。
 剣の勝負では油断した方がすぐに負ける。
 ましてや実力が拮抗している相手では尚更だ。
 俺とハヅキの実力はほぼ互角。
 喋りながらもしっかりと俺を攻めていたハヅキに対して、こちらは考え事でぼんやりとしてしまっていた。
 負けても文句は言えない。
「王女にあまり無様なところを見せるなよ。呆れられるぞ」
 そんな俺の内心を見抜いていたのか、ハヅキは剣を肩に載せてやれやれとため息をついた。
「別に女の子にいいところを見せたいと思うほどがっついてねえよ」
 第一、自分が望めば放っておいても女が寄ってくるのだ。
 飢える理由も状況も存在しない。
 セレナティオ公爵家の名前は、他の貴族にとってそれだけ魅力的なのだ。
 正妻になることはもちろん、側室でも構わないと言い寄ってくる女性の数はうんざりするほどだった。
 いずれは誰か適当な貴族から妻を迎えるのだろうが、形だけの結婚で一緒になる相手を愛せるとも思えない。
 そういう環境にある所為か、女性に対する執着心というものが自分でも不思議なほど存在しなかった。
 こういう環境ならばより一層自由恋愛を楽しもうとしてもおかしくないのだが、何故かそうする気にもなれない。
「まあ、お前はそうだろうな」
「……なんか含んでないか?」
「別に」
 ニヤニヤとしているハヅキにむっとなる俺。
 こういう見透かされているような扱いは嫌いだった。

 リディア王女がルヴェラ皇宮にやってきたのは、それから一週間後のことだった。

 

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