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ラブストーリー

恋する僕ら-約束のしかた<3>

   

ももと理沙の、淡くほんわかとしたお話第三話を贈ります。
といっても今回は、ももと担任の語り合い。

どうぞご堪能くださいませ。

***抜粋***

 あれは、あの約束はするべきじゃなかった。村山さんのダンパの誘いを、僕は受けるべきじゃなかったんだ。
「理沙坊とも行くんじゃないのか? 二股は楽じゃねぇぞ?」
「そんなんじゃないですよ、理沙と僕は……ただの友達ですから」
「ただの、ね」
 オバセンの瞳が僕に向けられる。微かな失笑。
 だけどその目は、笑っていない。
「だったら理沙坊にその約束の事を言ったのか? 他の女とダンパに行く約束をしたって、お前は平然と言えたのか?」

 ずきん。オバセンの言葉が胸を掻く。

 言える、わけがない。

 浮かぶのは理沙の寂しげな笑み。「そうか、わかったのな」何ていう、辛そうな微笑みが脳裏を過ぎる。

 絶対に、理沙は悲しむと断言できる。

***抜粋***

 

 好きとか嫌いとかじゃなくて。

 ただ気になる。
 理沙はそんな存在だと思う。
 ふと姿が見えないと不安になるし、傍に居ないと心配してしまう。家に帰ると今どうしてるかなって思う。休みの日、何してるのかなって思ったりする。
 それが特別な事だとは思わない。
 それが普通だと信じていた。
 それが当たり前だと思っていた。

 そんな僕らの、関係は。

○○○

 ぺた、ぺた。

「っはあ」
 気重い僕の内履きが、ため息の相槌のように間抜けた音色を鳴らしていく。
「……はあ」
 理沙の不審な目から逃げおおせてなお、僕のため息は止まらなかった。
 一階、二階、三階の踊り場までの段数は二十三。そんな段数まで把握するくらいに登り慣れた階段を踏み締めて、僕は特別棟の三階の真ん中で立ち止まる。
 ぺた。
「はぁ」
 見続けていた足元から、気持ちを持ち上げるように顔を上げた。自分の今の気持ちをどう表現していいかがわからない。ただ落ち着かない。
 だから僕は、自分が一番落ち着けるであろう場所にやって来た。ここは僕の休憩所、美術科の教室であり、担任のオバセンが教室か職員室に居ない時は大抵ココにいるというくらいの、住処のような場所でもある。
「ふぁあ、あふ」
 開け放たれた扉にはパソコン書体で「絵画展」と書かれた紙が貼付けてあった。打ったのは僕で、張ったのは後輩の生徒だ。
 そんな美術室の廊下側の窓は全部閉められていて、前と後ろの扉だけが片方に引かれた形で開いていた。少し入りにくい印象があるけれど、部屋の中に展示されている絵画をきちんと見られるようにとオバセンが施した配慮の結果だ。
「くあー、眠っみぃ」
 片方に寄せられた引き戸が二つ。そんな少し狭めな前扉の入口から、くしゃくしゃな縮れ毛と不精髭を供えた横顔が覗いていた。
 その人物が着込んでいる衣服は洗濯してるのかすら不明なよれ具合で、一見どこにでも居そうなオヤヂにしか見えない。
 僕はそんな、僕的ホームグラウンドに足を踏み入れたところでまた立ち止まる。
「いらっしゃい」
 ぎし。パイプ椅子から腰を上げた髭もじゃが、愛想百二十パーセント並みの笑顔で僕を出迎えてくれた、途端に仏頂面へと切り替わる。
 早っ。
「客かと思えばお前か、立川」
「あからさまだね、せんせ」
「ほっとけ。昨日は遅くまで飲んでたから眠いんだよ」
 ぎし。さっきまでの勢いが嘘のように、オバセンの腰が気だるげに椅子へと落ちていく。その動作は微妙におやじ臭い。
「店番、代わろうか?」
「遠慮しとく。お前に頼み事をすると後で高く付くからな」
 不精を絵で描いたようなオバセンが、顎髭をさすりながら苦笑する。
 まるで僕そのものが居ないかのように「くわぁあ」なんて豪快に欠伸するのは、僕に気を許す証拠か気を使う必要がない為なのか。
 どちらにしても、その表情の変化の激しさとけだるげな雰囲気のギャップが可笑しい。

 

-ラブストーリー


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