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魅舞唄師1〜唄を捧ぐおとぎ話7〜

   

 クアルは娘を信じた。
 イリアス――ファントムもアルレイナを信じた。

 アルレイナの運命を決める儀式が、今始まる。

注:凄く気になるところで終わっています。

 

 昼を少し過ぎた頃、クアルは城の回廊を歩いていた。
 午前にある朝議と様々な謁見が終わり、今度は溜まっているであろう書類を片付けるために、執務室へ向かうところだった。
 その前方から、パタパタと可愛らしい人影が走ってくる。
「姫様、走るなどはしたないですよ!?」
 その更に後ろからそんな声も聞こえた。
 その人影・セリアは、クアルの側まで来るとやっと走るのを止める。
 すぐに侍女であるカレンも追いつく。
「クアル様、ごきげんよう」
 少し息を切らしたままの状態で、セリアはスカートを僅かにつまみ挨拶を述べた。
 そしてクアルが挨拶を返す前に、待ちきれないといった感じで質問してきた。
「クアル様は、アルレイナの試験の結果をご存知?」
「姫様!」
 背後のカレンがたしなめるのをクアルは手で制した。
「よい。……セリア姫、それは私も存じ上げません。院の方からは何も通達が来ておりませんので」
 クアルの答えに、セリアは目に見えて落胆する。
 よく見ると、その後ろのカレンも同じように落胆していた。
「そうですか……ではお兄様を知りませんか?王太子であるお兄様のもとになら、何か情報が来ているかもと思って部屋を訪ねてみたらおりませんの。この時間ならいつもお部屋にいらっしゃるはずなのに……」
 不安げなセリアを見て、クアルは寂しそうな表情をする。
(この姫は、無意識に察しているのだろう……)
 今まさに起ころうとしていることを。
 クアルは一度目を閉じ、セリアを安心させるように微笑んだ。
「娘のことなら大丈夫です。今はあの子を信じてお部屋でお待ちください」
 その言葉に、セリアは少しためらいを見せつつも承諾した。
「そう……ですわね。申し訳ありません、お仕事がありますのに呼び止めてしまって。では、失礼致しますね」
 寂しそうに挨拶をしたセリアは、そのままカレンを引き連れ自室の方へ戻っていった。
 残されたクアルは、ダリアの森が見える窓に足を向け、娘の事を想う。
 アルレイナにとって、午前中の試験はただの茶番。
 本番はこれから始まるであろう儀式。
(殿下も向かったか……)
 兄・イリアスが部屋にいないとセリアは言っていた。
 アルレイナの秘密を知る数少ない人物の一人。
 おそらく、秘密を知る中で一番アルレイナと共にいたのは彼だろう。
 サリアが亡くなった後、友として、師としてアルレイナを支えてきた。
 早朝、彼から手紙が届いたときは驚いた。
 もう、そのときが来てしまったのかと……。
 そして、サリアが亡くなる直前に自分にだけ話したことを思い出す。
(もし、サリアの言っていた事が本当ならば……)
 そこまで考えて、クアルはゆっくり頭を振る。
 何にせよ、今はアルレイナを信じるしかないのだ。
「私とサリアの娘だ。信じるさ」
 しっかりとした口調でそう言ったクアルは、最後にもう一度ダリアの森を見て、仕事に戻った。

 

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