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歴史・時代

東京探偵小町 第二話「宣戦布告」 <2>

   

「あの頃、和豪くんは、自分を半人前だと思っていましたか?」
「いんや。もう一人前だ、なんだって出来らァって思ってたな」
「時枝お嬢さんも、同じですよ」

小説版『東京探偵小町
第一部 ―怪盗編―

Illustration:Dite

 

「で、正直なとこ……おめェはどう思ってンだよ」
 倫太郎が聞く態勢に入ったのを見て、和豪もようやく口を開く気になったのだろう。和豪は寝転がったまま、時枝の不在時にしか出せぬ話題を切り出した。
「どう、とは?」
「だからッ、本当にアレを、俺たちの新しい大将に据えんのかって聞いてンだよ」
「まあ、実際は僕らのほうが、ここの居候ですからねぇ」
 掛けていた眼鏡を外し、手巾で軽く拭いてやりながら、わざとおっとりした口調で言う。和豪は舌打ちをして、さらに倫太郎を睨みつけた。
「先生の奥さんがお許しになった以上、僕らが嫌だと言うわけにもいかないでしょう。本来なら、事務所から出て行かなくちゃならないのは、先生に拾ってもらった僕らのほうなんですから」
「ンなこと言ったって、まだ十六の小娘だぞ、十六の! ああやって女学校なんぞに行きながら、どうやって探偵の仕事をするってンだ」
「先生が亡くなった今、たいした依頼もありませんしね。信用調査くらいは僕らで続けていくとしても、先生がやっていらしたような大物相手の仕事は、とりあえず横に置いておきましょう。幸い、お嬢さんの学資は先生が遺して下さった資金でなんとかなりますし、本当に食べていくだけでしたら、僕の文筆業だけでも、なんとか」
 これは最近になって、倫太郎が真剣に検討しはじめている、将来への対策のひとつだった。
 探偵業が思うように続けられない以上、そしてこの体制で新たな一歩を踏み出すのが果たして最善の策なのかわからない以上、他に口に糊する手立てを考えなくてはならない。もともと朱門の遺産に手をつけるつもりはなかったが、時枝の帰国によって、にわかに物入りになるのは目に見えている。なんと言っても、相手は年頃の少女なのだ。たしかな稼ぎがあるのに、越したことはなかった。
「へえ、『探偵朝日』の原稿料って、そんなにいいのかよ」
「僕も後で知ったんですけど、『永原探偵帖』シリーズだけは、少し特別扱いになっているみたいですね」
「大将がカタをつけてきた事件を、よりによって三文小説に仕立てて切り売りするなんざ、俺ァ好かねェけどな」
「切り売りじゃありませんよ。先生の手掛けた事件を、こうして読み物にまとめておけば、もっとたくさんの人たちに、先生の偉業を知ってもらえるでしょう?」
 もちろん和豪も、倫太郎の書く『永原探偵帖』シリーズに、熱狂的な読者が大勢ついていることは知っている。「朱門の活躍を読み物にする」という趣向が受けたこともあるが、倫太郎自身に筆力がなければ、ここまで売れはしないだろう。今や『永原探偵帖』は、『探偵朝日』の二大看板のひとつになっているのだった。
「僕はお金のためではなく、先生の御霊を慰めるために書いているんです。それがうまく読者に歓迎されているだけで……もっとも今となっては、これが貴重な収入源になっているんですけど」
「で、今月は何を書いてンだよ」
「和豪くんも覚えているでしょう? 向島の事件です」
「ああ、アレか! 俺が大将の用心棒になった、記念すべき大事件! 俺、大活躍だったよなァ」
「大活躍ねぇ。先生の足を引っ張るばっかりだったと記憶していますけど?」

 

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