幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ファンタジー

DISCORD BRAKERS [ 9 ]

   2015年12月7日  

もう一人の自分は「イケメン騎士」で「魔法剣士」で「ハチミツ愛好家」!?

───イケメン騎士とその仲間たちと共に、音律魔法で「調律」された世界から飛び出した、三つの宝玉を回収せよ!
 

割とイケメン、更に最強。でも救いようのないハチミツ愛好家…な能天気なキラのペースに引きずられつつ、異次元世界「ルーン王国」から流星となって表れた三つの宝玉を探すため、藤崎奏は「もう一人の自分」こと、キラ=ウォルダーと共に宝玉回収に動き出す。

 

最寄駅から数駅で一度電車を乗り継ぎ、そこから三駅ほどで下車をすると、すぐに「星稜スカイタワー」の入り口へと続くエントランスに入ることが出来る。
流石は「駅から直結!アクセス便利な最新レジャースポット」とか何とか。とってつけたようなキャッチフレーズを、一応は忠実に表している立地条件である。
そんなエントランスを通り、「ご当地グッズ」と名を打ったお土産品を売る店の間を抜け、階段を数段上った先数十メートル。
視界は開け、そこからが「星稜スカイタワー」上層部に続くエレベーターとチケット売り場などが並ぶエリアの、いよいよ玄関口である。

「星稜スカイタワー」。その高さ、七百七十七メートル。
世界第二位と呼ばれるその電波塔は、地上から見上げると反り返って転んでしまうような感覚に陥る高さである。
つい数週間前までは、その塔の高さを利用して今はやりのプロジェクトマッピングを利用したイベントなどもやっていたようだが、それらも終わった今は、ただ単に観光客用の目玉スポットとなっている。
 
 
 

「ほほう……これは圧巻」
「感心している場合じゃないわよ。早くチケットを買って中に入らないと、入場制限がかかっちゃうわ」
「にゅうじょう……? それはなんだ?」
「あ、えーと、だから……つまりは入れなくなっちゃうってこと」
 

奏の予想通り、休日の今日は観光客が見るからに多い。
それを証明するかのように、開場予定の午前十時だというのにも関わらず、もうチケット売り場には数十メートルの列が出来ていた。
だいたい、電車を降りて駅の改札に向かう所から、明らかにここに向かっているであろうカップルや親子連れの姿をみていた奏だ。
間違いなく彼らについていけばここまでの道に迷うことはないだろうと、確信していたくらいである。
最も、迷うことないくらい駅から近い場所ではあるのだが。
……

ああ、とりあえずは友達や知り合いに会いませんように。
奏はそんなことを思いつつ、暢気にタワーを眺めてはニコニコ、チケット売り場近くの売店を覗いては小難しい顔をするという、一人百面相のキラを目の隅に捉えつつ、チケット売り場の列最後尾に並んだ。
 

キラが住んでいたルーン王国という場所は、魔法などの文化は発展しているけれど、こちらの世界の様な文明が進んでいる世界ではないみたいである。
だから、ルーン王国というのはきっとそう、こちらの世界でいう中世ヨーロッパのような感じではないのだろうかと、奏は思っている。
だからキラも、きっとそういう感覚でこの世界を過ごしているのだろうか…奏は、今日ここに来るまでのキラの行動を振り返りながら、そんなことを思っていた。
 

うちから駅までの移動手段として利用したバスや、道を通る車を見ては、
「何だ、あの高速で動く箱は!」
とかなんとか言って通行人の注目を浴びていたキラ。
歴史の教科書で似たエピソードを見たことがあるけれど、蒸気機関車に初めて乗った日本人よろしく、電車に乗る時もいきなり靴を脱ごうとしていた。
エスカレーターに乗る時なんて、降りるに降りれなくて後ろが大渋滞。危うく、怪我人が出そうだった。
おまけに、ここに来る際通ってきた階段の上部から「いらっしゃいませ」と自動音声が流れるたびに、何故か律儀に
「これは丁寧にどうも」
……とか何とか喋り出すので、それを聞いていた人々にもくすくすと笑われる始末である。

こちらの文化を良く知らないから仕方がないとは思うけれど、これでは先が思いやられる奏である。
勿論、そんな奏の心中など全く察することない素振りで、キラは相変わらずのマイペースである。
今も奏と一緒に列に並びながら辺りを見回しては、
「みてみろ、奏。あそこに呪術師がいるぞ! あの耳飾りの大きさ、そして数……かなりの実力に違いない」
「いや、あれはお洒落……着飾るってことよ? 着飾る為に、ああやってわざと大きなのをつけたり個数をたくさんつけているだけだから……」
「何!? こちらでは、着飾る為だけに己の身体に穴をあけて耳飾りや、鼻飾りをつけるのか……!? 何故己の身体を大切にしないのだ!?」

とかなんとか。もはや嫁入り前の娘を心配する父親のような事を言っては、更に周囲から注目を集めている。
 

文化の違う人と付き合うって、こんなに疲れることなのか。
国際結婚した人たちを、今心から尊敬する。奏はそんなキラの言葉をさらっと受け流しつつ、大きなため息を一つついていた。

 

-ファンタジー
-, , ,