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ファンタジー

DISCORD BRAKERS [ 5 ]

   2015年11月13日  

もう一人の自分は「イケメン騎士」で「魔法剣士」で「ハチミツ愛好家」!?

───イケメン騎士とその仲間たちと共に、音律魔法で「調律」された世界から飛び出した、三つの宝玉を回収せよ!
 

割とイケメン、更に最強。でも救いようのないハチミツ愛好家…な能天気なキラのペースに引きずられつつ、異次元世界「ルーン王国」から流星となって表れた三つの宝玉を探すため、藤崎奏は「もう一人の自分」こと、キラ=ウォルダーと共に宝玉回収に動き出す。

 

「……本当に大丈夫なんでしょうね!?」
「奏は疑い深いな。大丈夫、何の問題もない」
 

 キラと二人、成り行きというか半ば強制的に家に帰ってきた奏は、玄関を開ける前に再びキラに念を押していた。

 キラは、「自分は少し前から事情があって世話になっている遠い親戚」という魔法を家族にかけたとは言っている。

 しかし、そんな事を手放しで信じられるわけもなく……今まで彼氏もなく、ましてや異性の知り合いを家に招待さえしたことのない奏が、魔法が万が一かかっていなかった状態でいきなりそれをしようものなら、両親は卒倒するのではなかろうか?
 それに、キラ曰くどんなに彼が「有望で優秀」な騎士で魔法が使えるとしても、人の記憶を操るような魔法かることなどできるのだろうか? いささか、信じがたい状況だ。奏がそんなことを思っていると、

「まあ、心配するな。私は剣の腕も確かだが、魔法の腕も良いのだぞ。なんせ有望で優秀な騎士だからな!」

 羨ましいくらいに単純、そして自意識過剰極まりない。
 奏を悩ましている張本人のくせに、全くそんな感覚がないらしいキラは、悶々としている奏をよそに、なんと勝手に玄関のドアを開けてしまった。

「ちょっ……」
 ま、まだ心の準備が! ……奏がフライングした問題児に慌てて声をかけようとした、丁度その時だった。
 
 

「あら、二人ともお帰りなさい」
 
 

 ……玄関扉の中、奥のリビングに繋がる廊下にたまたま出ていた奏の母・里美が、帰宅した奏達に声をかけてきた。
 

「二人……とも?」
 里美のその声に、奏は思わず身を震わせる。

 ……二人というのは、勿論奏とキラのことだ。
 里美とキラは絶対に、今この瞬間が初対面。だって、奏とてつい先程、キラと出会ったのだから。
 それなのに、全く抵抗なくこの状況を受け入れているということは……
 

「……な? 問題ない」
 実際にキラが魔法をかけた、というのが立証されたということだ。
 目の当たりにした魔法の効力の前に言葉を失う奏の耳に、キラがそっとそう囁いた。

「……そうだけど……」
 とはいえ、頭ではわかっていても、そうそう信じられることではない。複雑な思いで奏がそう呟くと、

「どうしたのよ、奏。あんた何か変よ?」
「え、そ、そう?」
「お母さんがあんたとキラ君を迎えるのが、そんなにビックリすること? 初対面でもあるまいし」
 里美はそう言いながら笑っていた。
 

 ……いや、初対面ですけど?
 

 言いたい。突っ込みたい。今すぐ全てを明かしてやりたい。
 欲望の三段活用を披露したい気持ちに駆られる奏である。だがそんな奏を余所に、

「キラ君、本当にいつもごめんねー、奏の面倒みてもらって。この子頼りないし大変でしょう?」
「いや、もう慣れたので大丈夫」
「優しいわね、キラ君は」
「いやあ、それほどでも」

 何故か、奏そっちのけでキラとお母さんは和やかな会話を交わしていた。更に、

「それより奏、あんた先にお風呂に入っちゃいなさいよ? キラ君、奏の次に入ってね。そうしたらご飯にしましょ」
「母上殿、いつもすまない」

 そんな里美に対し、何故かキラが笑顔でそう返す。

 ……何故、あんたが勝手に「母上殿」とか言う。というより、何故あんたが謝る!

「ちょっとキラ!」
 理不尽なこの状況に、流石に奏が突っかかろうとするも、

「奏、キラ君はただでさえ慣れない生活で気も使うし、疲れているのよ? 一番風呂に入りたいんだったら、後に待っている人のことを考えて早く入ってあげなさいよ」
 里美はそんな奏を抑え、「いつもごめんね、キラ君」と、何故かキラの肩を持ちながら、リビングへと消えていった。

「いやあ、奏の母上殿は穏やかで優しく、まさに女性の鏡だな」
 理不尽なこの気持ちを逆なでする天才へと今や化そうとしているキラが、ふるふると震えている奏の横でそんな事を呟いていた。

「あんたねえっ……」
 自分の母親のことを誉められるのは悪い気はしないし、それにキラの話では、キラは「奏」なわけだから、奏の母親がキラの「母上」っていうのはあながち間違ってはいない。いないけれど……でもなんだろう、なんだろうかこのモヤモヤ感は。奏は思わず眉間にしわを寄せて唸る。
 

 魔法がかかっているとはいえ、妙に馴染みすぎてやいませんか?
 それとも、必要以上にうちの家族が魔法にかかりすぎた? ……良く、催眠術は「単純で素直」な人がかかりやすいという。
 魔法も一緒なのか。ということは、うちは家族みんなで単純、ってことなのか?
 ……

「……はあ」
 どちらにせよ、複雑なことには変わりない。
 奏は大きなため息をつくと、お風呂に入って食事をした後に、改めてキラの話を聞くということにして、家の中にあがった。
 
 

 本当に、寝たら全てが元通りになるのか。いや、その可能性は大幅に減った。だって、家族までしっかりと魔法にかかってしまっているんだもの。
 ということは、やっぱりキラの話は全部本当なのか……。

「……」
 それを考えると、一時は少し落ち着いたけど、奏の胸が再びドキドキと鼓動し始めた。
 勿論、ときめいてではないけれど。
 ……
 ちらっと奏の後ろにいるキラを振り返ると、キラは鼻歌を歌いながら、慣れた手つきで靴を脱ぎ、そして伸びをしている。
 どうやら異次元の世界でも、家の中に入る時には靴を脱ぐ、という習慣があるらしい。

 度胸が据わっているというか、大物というか。本当にこれがもう一人の自分だというのが、腑に落ちない。

 ……ああ、本当にとんでもないことに巻き込まれてしまった。
 屋上になんか行かないで、鍵を置いたらすぐに帰ればよかった。
 ホント、恨むよ天文部。奏は再びため息をつくと、とりあえず自分の部屋へと向かった。

 

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