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歴史・時代

東京探偵小町 第二話「宣戦布告」 <3>

   

「さあさ、ショウブはこれからですヨ」
「ふうん、王が討たれても象が成った太子が生きてりゃ、まだ望みはあると」
「そう、オウジサマがイチバンのキリフダなのですヨ」

小説版『東京探偵小町
第一部 ―怪盗編―

Illustration:Dite

 

「やだ、そんなに変?」
 笑われれば、気になるのが乙女心というものだろう。
 時枝は急に顔を曇らせて、自分の格好をあちこち見直した。
「あたしの着物の着かた、やっぱりどこかおかしかったり、いけなかったりするのかしらん。上海の女学校はセーラー服だったし、普段はお洋服やチーパオばっかりだったから、よくわからないの。あ、チーパオってあっちのワンピースのことよ」
「いけなくはないのですけれど……ふふ、お袴の裾をそんなに短くしていらっしゃると、まるで運動会のようで」
 時枝を追って戻ってきたみどりが、口もとを覆って苦笑する。
 今日、女学校で出会ったばかりだというのに、時枝とみどりは、もうすっかり親友同士の顔になっていた。
「だって、この格好、思っていたよりもずっと動きづらいんだもの。子供の頃は、そんなふうには感じなかったんだけどな」
「小さい頃は、単衣に三尺、だったからでしょうか。わたくしも学校に上がる頃までは、もっと楽な格好をしておりましたわ」
「そうね。これで草履だったら、あたし、走ることもできやしないわ。日本の女学校で、編み上げがはやっていて良かった。そういえば、みどりさんは編み上げじゃなかったわよね。白足袋にフェルトの草履」
「ええ、編み上げを履くと、決まって爪先が痛くなってしまうものですから」
 すすめられた席に着きながら、みどりは改めて、自分の隣に立つ時枝の横顔を見つめた。
 たしかに、陰口を叩かれても仕方ないくらいの、ずいぶん思い切った「断髪」だった。もっと幼いうちならともかく、女学校の上級生にもなる歳になって、ここまで切ってしまうのは珍しい。だが、時枝には不思議とそれがよく似合っていた。断髪にしてなお、少女らしさが失われていないのだ。いわゆる「はいからさん」な格好をしていても、不思議とちぐはぐな感じはしなかった。
「でも……時枝さまには、その格好が良くお似合いですわ。おぐしもすっきりしていらっしゃるし、凛として、どこかしら男の子のようでもあって。時枝さまらしいと思います」
「そう? みどりさんがそう言ってくれるなら安心だわ。さ、みんな揃ったし、おやつにしましょ! 倫ちゃん、あたしも手伝う」
「はいはい、お願いします」
 そんな三人のやり取りを聞きつつ、先に席に着いた和豪が、蒸しカステラの一番大きなひと切れに手を伸ばした。それを倫太郎が目ざとく見つけ、手の甲をペチッと叩く。
「いってーなッ。何すンだよ!」
「何すんだよ、じゃありませんよ、お嬢さんがたの前で行儀の悪い。和豪くんも、早く手を洗ってらっしゃい」
「ンだよ、俺ァガキじゃねェんだぞ。いちいち指図すンなっての」
「ガキじゃないんなら、手くらいさっさと洗ってらっしゃい。どうせ今日は、お父上の道場で雑巾掛け三昧だったんでしょう? 汚い手で触るんじゃありませんよ」
「おお、兄貴の野郎、俺をなんだと思ってやがンだ。剣の才能で言やァ、兄貴よか俺のほうがよっぽど――――」
「いいから、さっさと行動する」
「あーもーうるせェな。わかったっての。ったく、小姑かってんだ、おめェは」

 

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