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ファンタジー

DISCORD BRAKERS [ 2 ]

   2015年11月4日  

もう一人の自分は「イケメン騎士」で「魔法剣士」で「ハチミツ愛好家」!?

───イケメン騎士とその仲間たちと共に、音律魔法で「調律」された世界から飛び出した、三つの宝玉を回収せよ!
 

割とイケメン、更に最強。でも救いようのないハチミツ愛好家…な能天気なキラのペースに引きずられつつ、異次元世界「ルーン王国」から流星となって表れた三つの宝玉を探すため、藤崎奏は「もう一人の自分」こと、キラ=ウォルダーと共に宝玉回収に動き出す。

 

 ……目が覚めた時には、もしかしたら猫人間にでもなっているかもしれない。それならまだしも、姿かたちが醜い妖怪だったらどうしよう。いやそもそも、目を覚ますことなんてあるのだろうか……ああそれならせめて、普段友達と妄想していたような彼氏を作ってから死にたかった。
 
 人間、追い込まれると意外に暢気な事を考えるのかもしれない。そのせいもあってか、

「は!」

 運が良いのか悪運に強いのか。奏はほどなくして意識を取り戻した。
 どうやら化け猫に妙な術をかけられたにも関わらず、無事に生還を果たしたようである。しかも傍には例の化け猫はおらず、

「大丈夫か?」

 その代り見たことのない男性が、屋上のコンクリに寝転がっている奏の顔を覗き込んでいた。
 年の頃は、奏より少しだけ年上だろうか。見る限るだと、二十歳手前ぐらいか、いや二十代前半である。
 「物凄いイケメン」というわけではないけれど、それなりに顔も整っており、端正な印象を受ける。
  サラサラの赤い髪の毛が、すっかり日が暮れた屋上を吹き抜ける夜風でゆっくりと揺れていた。
 染めているのだろうか? しかもよく見ると、瞳の色が薄いブルーをしていた。もしかしたら、外国人なのかもしれない。
 それに、彼は白いワイシャツにタイトなパンツ、そしてそれに合うようなロングブーツを履いていた。
 今は初夏。何となく季節感が無い様なその恰好は、当然のことながらこの学校の教師ではないし、用務員でもない。
 海外からの来客か、それとも何かの用事でたまたまこの学校に来ている時に悲鳴が聞こえて、助けに来てくれたのか。
 どちらにせよ、

「た、た、助けてください! 化け猫が……喋る猫が急に私に変な術を!!」

 ……奏が体験した事情を知らない第三者が聞いたら、どう考えても「この子倒れる時に頭でも打った?」と心配されそうな内容だろう。だが、今は急を有するのだ。
 おかしいと思われようが、残念ながら本当に喋る猫もいたし、妙な術をかけられて奏が気を失っていたのも事実。
 理解してもらえるまで時間は掛かるかもしれないけれど、奏では必死で男性に訴えかけた。

 ところが。

「……だから、私の名前はキラだ。何度言ったらわかる。お前は学習能力が欠如しているのか?」
「え……?」
「猫が喋るのに抵抗があるようなのでこうして人間の姿になってやったが……それでも化け猫といわれるのには心外だ」

 奏の目の前にいる男性は……なぜか、さっきの化け猫と同じ台詞を呟いた。

「あ、あああ……」

 ……そういえば。この男性の声、さっきの化け猫が話しかけてきた声と似ているような気がする。
 とりあえず助けを求めなければ、と必死になっていた奏であったが、この男性の「大丈夫?」という第一声でそれに気がつかなかったのが非常に悔やまれた。ということは、

「猫が人に化けた!いやー!!!」

 化け猫が妙な術で今度は人に! もう更に訳が分からない。再び奏がパニックを起こすも、

「やれやれ。猫だと化けもの扱い、人でも文句があるとは……この姿の何が不満か」
「え!? だ、だって……!」
「安心せよ。別にお前をとって食ったりはしない。それに、私は魔物ではない。さっきの猫はその身体だけ借りていたものだし、こちらの方が私の本来の姿。それに戻っただけだ」
「本来って……そ、そんなどうしてわざわざ猫の身体を借りて……?」
「だから、それを今から説明しようとしているではないか」
「は、はあ……」

 化け猫もとい、本来は人の姿をしているというこの「キラ」という猫人間(多分今はこの表現が一番正しいと思われる)は、何故か偉そうな口調で奏にそう言うと、まずは落ち着いて座るようにと指示をした。
 

「……」
 

  一体これは現実なのだろうか。
 訳の分からないことが立て続けに起こり、奏の頭は未だにパニック状態だ。
 でも、猫が人間の言葉を喋るのを聞くよりは、こうして「人間」の姿をしている猫人間から話を聞く方が、少しは落ち着きを取り戻せるかもしれない。
 えーい、もうこの後喰われるか取りつかれるかは解らないけど、どうせなら時間稼ぎをするべきか。座らなかったら、もしかしたらこの場で食い殺されるかもしれないし。
 ……
「……」
 まだ、死にたくない……。生と死の駆け引きは、生が圧倒的に勝利した。
 奏ではそんなことを思いつつゆっくりと頷くと、キラの隣……でも少し間を空けて……に座った。キラはそんな奏を確認しつつ、まずは一呼吸をしてから、改めて口を開いた。
 
 

 ……こうして、ようやく奏とキラ(猫人間)は真面に会話をすることになるのだだが、キラの口から聞く彼の素性や取り巻く事情に、奏は冷静を取り戻すどころか再びパニックを起こすこととなるのである。

 

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