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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第18話 花はそこに咲いていた

   

レイシーは、生きていることに罪悪を抱いていた。それを見抜いたプラインの言葉が、彼女の胸に重く沈んでいく。僅か十歳の少女の心に圧しかかる運命は、やはり――――残酷だ。

『もう誰一人として、私の運命の犠牲にしたくない』

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

それは、来たるべき時の為に。

 

 
 勿体ない。そう言った私をプラインは目を丸くして見つめた。

「姫――――?」
「私がいていい場所じゃない。私が手を伸ばしていい温もりじゃない。私が――――巻き込んでいい場所じゃない」

 私とルイスは、この町にいれさえずれば安全なのかもしれない。だが、この町で暮らす民はどうだ。安全なのか? いや違う。きっと、今この時も危険に晒している。私達を匿っていたことがまだ見ぬ敵に知られれば、ただでは済まないだろう。何も知らない住民を死と隣り合わせの状況に置いているのだ。そんなこと、許されない。

「私は……あなたやオール、ルドウにピクシス。そして他にもいる臣下達を巻き込むことにすら、納得が出来ないの」

 彼等が、それを己の役目なのだと口を揃えてそう言っても、認めることは決して出来ない。
 だが――――だからと言って、私にはどうすることも出来ないから。

 ……拳を握る。

「それでも、あなた達に頼るしかない、愚かな私を許して」

 これ以上誰も巻き込みたくなどない。傷つけさせたくない。それでも、守る為の力を持たない私では、彼等に頼らずに身を守る術も、ルイスを守る方法も思いつかないのだ。

「ごめんなさい」

 町の人の笑顔を見ているだけで、胸が痛い。何度謝罪を口にしても足りなかった。
 私のせいで、プランジットが争いの場となったら取り返しがつかない。きっと、誰にも許してなんてもらえない。永遠に罪だけが重なっていく。

 大切なものを――――大切に思ったものを、これ以上失ってしまったなら、私とルイスはもう二度と共に生きることは出来ないだろう。

「姫」

 プラインは困ったように指と指を重ね合わせていた。そして、“笑っていた”。
 そのふとした笑顔が、赤い髪の彼女と重なった。私の為に犠牲になったミッシェルの顔が、この瞳に焼きついている。そう――――今でもずっと。

「姫は、”生きていることを罪とお思いですか?”」
「…………」

 プラインは静かにそう言った。答える言葉が浮かばない私は、ただ首を縦へと振った。

「……左様でございますか。では姫は、生きていることがお辛いのですか?」
「…………」

 その言葉にも、黙って頷く。
 この弱い私の本心をルイスに知られてしまったら――――。そうと思うととても恐ろしかったが、それは彼女に偽りを言う理由にはならない。
 自分の胸に、とんっと拳を当てて、私は彼女を勢いよく見上げた。

「ええ、とても。たまらなく、苦しいわ。生きていることは、今の私には苦痛でしかありません。喜びなんて、微塵も感じないっ」

 苦しくて、息が止まりそうなのに、それでもこの身は生きている。
 私の意思と、心と、体。その全てが――――バラバラなのだ。

 理不尽に壊された日常。奪われた大切な者の命。ルイスにまた消させてしまった彼自身の。その全てに怒りが込み上げてくるけれど、それと同じくらいに私は今こうして生きていることが辛い。

 生きていたいと思う自分自身が憎いのだ。
 

 

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