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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season15-11

   

 黒羽警部の運転する車が多部家前に到着した。

 反対側に野村が逃走した車が停まっていた。すでに多部家へ襲撃したと思われる。

 探偵三人が多部家に突撃する。黒羽は応援を呼ぶため車に残った。がすぐに追いかけるといった。

 しかたがないことだった。一刻を争うことだった。探偵に依頼するしかない。

 逆上したネズミが多部に包丁を向けている。御影の瞬発力がすかさず反応し家宅内に音もなき侵入した。

 多部の家族にむけて、野村の怒号が突入した御影の耳にまでとんできた。

 緊急事態。もはや一秒が長いほどの事態になっている。

 リビングを垣間見る御影。そして一触即発のタイミングに、奥さんが野村に今にも包丁で刺殺されそうだった。

 御影はそのあいだにとびこんだ。身を呈して盾になった。

 そして野村は怒りのまま右手を振りおろした。

 御影の運命は…。

 ついに決着。

 

 黒羽警部が運転する車が到着した。

「おい、あれ」火守が指をさした。

 凸凹の擦り傷だらけの車が路肩に停止している。

「中はだれもいなさそうだな」川上が遠目でキャッツ・アイを発動している。「つまりすでに多部家へ侵入しているかもよ」

「ああ、そうだな」火守はいった。「でも、わざわざ目を使うまでもないだろ」

 ふくれる川上だった。

「こちらも停車させて、多部議員の自宅へ行きます。わたしは事情を無線でしらせます。探偵に家宅捜査の権限はないが、わたしが許可しますので、警察と同じように野村を止めてくれますか?」黒羽警部がまさかの一般人にむけていちばん危険な役目を頼んだ。

「また依頼かよ、命懸けの依頼だな」火守がいった。「危険手当が妥当だが、命を失ったら元も子もない」

「でも、しかたない。おれたちにもできることがあるならしないと…」頭を抱えながら川上がいった。

「ふたりとも、たしかに逆上した人間がどういう行動にでるかわからないけど、相手はあの野村です。号泣会見した情けない日本人の恥さらしですよ」御影は思いだすようにいった。

「そうだった」火守が顔をあげた。

「そうだったな」川上は頬を吊り上げた。

 探偵三人は車をおりて多部の自宅を警部から示されて突入した。

 外壁を背伸びして覗くと家宅内が見えた。ガラス窓のリビングに多部の家族が見えた。そして、野村もいた。

「おい!」声を殺しながら火守がいった。「すでに野村がいる。包丁持って多部の家族を脅している。左隅に娘が腰抜かしている。右の壁側に多部氏が、そして中央のところに奥さんかな。いちばん近くにいる。野村の攻撃をいちばんに受けそうな距離感だ。もはや緊急事態。警察の応援は待ってられない」

「なら、突入あるのみ」御影は若さからか率先した。

「まただよ、集中すると突っ走ってしまう癖、あれだけはおそらく直らないな」川上が追走した。

「おまえら、たくっ、包丁持っているんだぞ。滑稽で情けない男でも、振り回すくらいのことはできる。凶器持っている相手におれたちの体術で阻むのにも間合いと洞察力が必要なんだぞ!」火守が追い駆けながら説明するも、御影にはとどいてない。

「あいつめ」川上と火守は声をそろえていった。

 玄関を静かに開けてひとり突入した。

「ぶち殺してやるー!」

 御影は怒号に似た声をきいた。これは謝罪会見で咆哮をとばしていた男の声だ。

「やべー」御影はダッシュした。

「やめろ!」聞き覚えのない声をきいた。だが、おそらく消去法で多部だとわかった。

 右手に持っている野村の包丁のターゲットになっている。

 あと二三秒でひとりの命が奪われようとしているかもしれない。

 リビングをその目で見た御影。

 すると、野村が血走った眼。むき出した歯。怒りに浮かびあがる血管。右腕が振り上げ刃を振りおろす。

 奥さんに刃先はむいている。

「卑怯者め」御影の瞬発力で、野村の振りおろす包丁の刃先と多部の奥さんのあいだに入った。つまり多部氏が護るはずの家族を御影が身を呈して護った。

“ザクッ”。

 多部の家族は目を丸くさせた。どこのだれが入ってきたのかわからないが、多部は妻が無事であることですぐに駆け寄った。

「きみ、だいじょうぶか」多部は救出に入った若い男を心配した。

 肉が切り裂かれるような音が聞こえたかどうかはさだかではない。

 振りおろされて、タイミングよく盾になった御影がうけとめた刃が、そういう鈍い音を響かせたように思ったのかもしれない。

「おーい…」御影は低い声を放つ。「おまえ、たいがいにしとけよ、卑怯者め」

 獣のような目を光らせ見上げる御影の眼光に、野村は声も発することができず、微動に後ずさりしはじめていた。

「はっ」野村が見た手もとは、確実に盾となった若者の体に包丁を切り裂いた。野村もその実感があった。

「まったく政治家の家ってのは、クッションの品質もちがうんだな」

 御影の盾になったのは、高級なクッションだった。玄関から突入したさい、リビングに入ると視界にクッションがあった。包丁くらいならこれで防げると一瞬で判断した。

「上等」

「くそっ、どうしてこう、おれの計画は阻まれるんだ」野村はまたしても泣きだしていた。

「それはおまえが滑稽だからだ」御影はそのまま回し蹴りをし、野村を弾き飛ばした。

 リビングの壁に背面から激突して卒倒した。

「もう少し手ごたえがあっていいんだけどな」御影は準備運動にもならなかった。

「だいじょうぶか、御影…」

 川上と火守が遅れて入ってきた。

「おいおい、もう終わったのか、タイムラグは10秒もかかってないってのに」川上は驚いていた。

「こいつの瞬発力は並みじゃないな」火守も驚いていた。

 

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