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検非違使

   

 検非違使。

 そんな役目がぼくに務まるとは思えなかった。

 でも、迎えがやってきた。

 <検非違使は京都警察・司法機関の頂点に位置することから、大きな権力を振るい、人から頼られるとともに恐れられていた。……後には諸国や郡ないし荘園単位で置かれることがあった。(平凡社・世界大百科事典)>

 

 
 それは、ある晴れ渡った日の午後。
 

 検非違使尉けびいしのじょうに任ずる、という辞令がぼくのところに来た。

 誰かが持ってきたのか、あるいは「辞令」という足の生えた何かが、山奥から自分で下りてきて、家の玄関を開けて入ってきたのか、ぼくは知らない。誰かが届けたにせよ、自分で歩いてやってきたにせよ、とにかく「辞令」は間違いなくこの家にやってきた。

 誰にも気づかれず山の神が居座るように、それはある瞬間、家の中の空気を変えた。同時にぼくは検非違使尉になり、父母やその他の人々にとっても、ぼくが検非違使尉であることは周知の事実になったのだ。

 お父様は「何と名誉なことだ。この家から検非違使が出るとは」と涙を流して喜んでいる。お母様に「検非違使とはいったい、どのようなお仕事なのですか」と尋ねると、お母様は怖い顔をして、「そのようなことを尋ねるものではない」とぼくを叱った。仕方がないから、それ以上何も聞かずに黙っていた。

 多分、「どんな仕事か」という問いは禁じられているのだろう。知っていて当たり前のことを知らなかった。ぼくはそう思って、仏間で一人うなだれて悲しんだ。

 ただ、検非違使[ke-bi-i-shi]という音にどこかしら聞き覚えがあったから、お父様から百科事典をお借りして調べてみると、それは載っていた。平安時代の昔に設けられた警察官と裁判官を兼ねるような役職で、大層な権力を持っていたらしい。
 

 ぼくは庄屋の三男坊で、特に学業成績が優秀なわけでも、体育に優れているわけでもない。しばらくすれば仙次郎兄様のように徴兵検査を受け、恐らくは甲種合格となってどこかの連隊に入営するはずなのだ。ぼくはそういう、ありふれた17歳の男子にすぎない。

 そんな平凡極まりない中学生のぼくに、検非違使尉などという役目が務まるのだろうか。辞令が来てしまったのだから、従わなければいけないのだろうか。

 ぼくが検非違使に任ぜられた理由。お父様には怖くて聞けない。仙次郎兄様なら教えてくれるかもしれないけれど、兄様は山を三つ越えた先の、隣町にある連隊に勤務している。それに、辞令が着いて10日後の満月の夜には、「やんごとなき筋」からお迎えが来るという話であった。
 
 

 

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