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歴史・時代

宮廷戯曲/第2話

   2005年9月29日  

“繰り返される儀式”

能吏・高呂順(29)が、老帝の側室・紫嬉(25)に持ちかけた企みは驚くべきものだった。即ち、彼自身が紫嬉を身篭らせ、その御子を次代の天子とするというのである。

迷った末に、紫嬉はその賭けに乗ることを決断する。そして、老帝から召される夜が来る…。

愛と陰謀渦巻く宮廷ラブストーリー。

 

第2話
“繰り返される儀式”

一列に植えられた桜の木々から、うす紅色の雪が舞い散る。宮殿の庭園で催された宴には、多くの宮廷人と、色とりどりに着飾った後宮の女たちが顔を揃えていた。

(あの高呂順(コウロジュン)という男の申すこと、やはり確かなのであろうか…)
披露される華やかな演舞を見つめながら、紫嬉(シキ)は、ひとり物思いにふけっていた。

側付きの女官に密かに確認させたところ、皇太孫が病の床にあることは確かなことであった。その事実は伏せられているが、もう、そう長くはない。
であれば、右の宰相の企みとやらも本当なのであろうか…。

(しかし、あの男…)
紫嬉に、懐妊することを薦めた高呂順は、その口で、そっけなくこう付け加えたのである。
「僭越ながら、お相手は私がつとめましょう」
整ってこそいるが、感情の起伏に乏しく、能吏という印象以外を刻まない、あの男の顔。いやしい下心などなく、あくまで、企みの一過程に過ぎない、という物言いだった。
「我々は、紫嬉さまが御子を擁して、国権を握る所存にございます」

(発覚すれば、命もない、というのに…)
後宮の女と契りを交わせば、女も男も死罪と決まっている。
(これ自体、罠かもしれぬ)
紫嬉は、躊躇していた。このような大層なはかりごと、簡単に踏み出せる訳がない。

(しかし……)
紫嬉は、老帝の鎮座する神輿を見やった。その傍ら、いつもならば紫嬉の座るその場所に、若草色の着物を纏った少女が座っている。
(このままでは、いずれ、妾はこの地位を追われる…)
あの娘と同じ、11の歳に後宮に召された紫嬉は、この世界の外で生きるすべを知らない。
紫嬉は、高呂順の企みに賭けることを心に決めた。

 

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