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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season15-13 END

   

 御影の推理によって野村は泣き崩れた。自らの心意を咆哮している。

 謝罪会見で見せた姿を生で見ているようだった。

 多部を恨んで逆恨みで犯行におよんだ経緯を話す。探偵や刑事は頭を抱えるほどの身勝手な言い分だとあきれていた。

 多部に尽くしてきたと言い張るが、辛辣な見放されたようなひと言に怒りをおぼえたという。

 黒羽警部は野村に手錠をかけようと近寄った。

 これで事件は解決。逮捕された野村は罪を償い、ネズミ色の囚人服を着て…、と探偵たちはイメージしていたところに最後の悪あがきをみせた野村だった。

 追い込まれたネズミは最後の最後で抵抗するものだ。

 泣き叫ぶ姿に見飽きていたが、不気味に笑いだした。野村の手に握られているものに、一同愕然となった。

 絶体絶命なのは御影たちになった。まさかの野村の逆転劇。こいつのシナリオは底知れない。

 意外な結末に一同、あ然。

 そして、御影たちの運命は…。

「第十五シリーズ完結」

 

 野村は泣き崩れた。いちど見た光景を生で見ている。ある意味見飽きているが、テレビで流れるとなんど見ても笑えるドラマだった。

 号泣している。「ああああ…、あのくらい普通のことなんだよぉー! わたしたちがいる政界はー」

 御影はなにも言い返せなかった。反発の言葉もただの野次だ。

 力がない。無力だ。だが民衆の声としてならとどく。「クズだな」

 にらみつける男。ちんけな人間を見下げるような目つきは、謝罪会見で見せた目ではない。

「わたしは、いずれまた返り咲くことができると信じていたのに…」野村はうずくまっていた。「わたしの師である多部議員のためにこの手を汚したようなものだ」

「な、なにをいっている野村くん」師と仰ぐ多部はいまにも腰が抜けそうだった。

「だけど、見放した」野村は初めて多部氏とのことを口にした。

“きみが責任をとれ”。野村は多部に言われ捨てられたことを明確にした。

「そういわれたからか?」黒羽警部がいった。

「そうだ! わたしは、どれだけ多部さんのために尽くしてきたか、いうことをきいてきたか、なのに、それなのに、あなたはぁぁあああああ!」泣き叫んでいる下品なまでに稚拙な大人が崩れていく。

「それってやっかみだろ、あんたの罪はあんたが償うの、それが犯罪を犯した者の務めだ」川上は刑事のように躾けた。

「いいこというじゃん」火守が微笑んでいた。

「もう終わりにしよう、警部がいるんだ。逮捕されて終わりだ。証拠は出揃っている」川上が警部をみた。

 黒羽警部は頷いた。「わかった」

 うずくまる野村に近寄る黒羽警部。手錠をとりだした。

 御影はじっと哀れな罪びとを見下げていた。

「こんなやつのために、はるばる半日かけてきたけど、不愉快さしかないな」

 そのときだった。

 野村は最後の抵抗を見せた。悪あがきともとれるように黒羽警部を撥ねつけた。

「なぜわたしなんだ!」

 突然、わけのわからないことを吠える。

「このくらいのこと普通なんだよ。なぜわからない? わたしたちがいる政界とは…」

 謝罪会見と同じことをいっている。

「おうじょうぎわのわるいことを、駄々っ子かほんとうに」川上があきれ返っていた。

 号泣する野村。なにを主張したいのかわからない。おそらくだが、と御影はいった。

「このひとはあくまでも自分を誇示している。それなりに政治家になったことで向上心が芽生えている。プライドを…」

 だれも共感できないことだった。

「みっともない…」娘が声を漏らした。

 野村は突然、泣きやみ、うつむいたと思ったら不気味に笑いだした。

「ひとりじゃ、倒れない。つぶれない。終わりたくない…」

 異様な空気がただよいはじめていた。

 多部の家族はなにも感じていないが、探偵三人は犯罪者が放つ異様な空気を醸しだすのを感知できる。

 黒羽警部は三人を見て、ただごとではないと察した。

 野村は号泣はしなかった。しくしくと涙をこらえるように歯を食いしばっていた。

「謝罪会見の号泣謝罪はやはり演技だったようだな」火守はあきれ返っていた。

「人生そのものが演技で、演出をしていたってことですかね」御影はいった。

「気を引きしめろ」川上は、野村の右手に気づいた。この部屋でなによりも危険なものだった。火守も目が離せなくなった。

 多部の家族は凍りつくように震え脅えていた。

「どこからそういうものを手にできるんだ?」火守がいった。

 右手に握りしめてその口を眼前のだれかにむけた。なにかが取り憑いたかのように、唸り声を放ちながら狂気じみた目で牙をむき、涎まで垂らしながら恐怖を煽る野村だった。

「それはわたしのだ…」黒羽警部は自分の体を手で触った。

 御影が悔しそうにいう。「さっき手錠をかけようとしたときに、警部の体を押しのけようとしたときだ。奪われた、黒羽警部の銃を…」

 形勢逆転。野村に勝機が生まれた。

「あー、うぁぁぁぁ…」

 野村の様子がおかしい。まるでゾンビのように唸る。もはや正気ではない。

 恐怖に震えあがる一同。警部ですら困惑していた。

「聴こえる」御影がいった。

 サイレンの音がけたたましく聴こえる。

「応援の警察だ」警部は勝ち気になった。「もう逃げられない。やめるんだ。返せ」

 黒羽警部は自分の銃が奪われ、もし発砲なんてされて、けが人、いや死人まででたら懲戒免職はぬぐえない。

「やめてくれ」

 野村は警部に銃口をむけた。そのときだった。

 御影の瞬発力がさえわたる。すかさず野村の腕を払いのけようと平手を食らわす。

 野村の右手は肘から屈折し、手首を掴まれて御影の小手先の関節技を決めた。するりと銃は床に落ち、黒羽警部の足元まで滑った。

「もどってきた、だが、むちゃするな」警部は目を見開いた。

「そうでもないさ」火守は笑っていた。

「御影の瞬発力が勝っていたな」川上も笑っていた。

 ふたりとも気づいていた。

 御影は野村の動きを関節技で完全に封じた。「動くなよ。いいか、銃は安全装置を外してから引きがねをひかないとな」

 警部は銃を見た。「なるほど、すごい洞察力だ」

「あれが御影だけが持つ、プライベート・アイ。探偵の目というやつだ」火守が微笑んだ。まるで御影の成長をうれしく思うようにだ。

 

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