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ノンジャンル

立ち枯れ 4

   

警察官で、捜査一課長をしている柏木は、ひどく偏屈な男だった。

他人とかかわるのが鬱陶しく、煩わしい。
自分以外の人間は、全員馬鹿に見えた。

ある日、柏木の前に、夢の女、幸恵が現れる。
彼女は、柏木に、白く輝く月を見せてくれた。
幸恵に惹かれ、柏木はその素性を調べ上げる。

そしてそれから数日後の水曜日、太った男の他殺体が発見された。

 

「その男とは今も?」
「いえ、ウチに来てすぐに別れたそうよ、今は一人だと思うわ」
「ふうん……」
 世間知らずな金持ちのお嬢様。そんなクズに引っかかったばかりに、幸恵の人生は狂ったのだ。幸恵は今もその男の作った借金を肩代わりし、金を払い続けているという。
 馬鹿な女だと思った。そんな無駄飯食らいに尽くす暇があるなら、そのぶん自分に金をかければよかったのだ。そうすれば彼女はもっと輝いただろう。
 しかし女は多少バカなほうが可愛い。なまじ賢い女、自分は賢いと思っている女ほど始末に終えないモノはない。煽てればバカにしてるのかと怒るし、貶せばもっと怒る。意見が違えば激昂する。柏木は勤めている警察署の女刑事を思い浮かべて息を吐いた。
 現場のほんのちょっとした意見の食い違いに、女は大抵激怒する。浅はか、というのだろうか、自分の考えを否定されることをとても嫌うのだ。もちろん、柏木が正しいと決まっているわけではないし、その女のほうが正しい場合だってあるだろう。だがそれでも、女の考えは譲り難いことが多い。
 たぶん此方がよく思っていないことを察するのだろう、その女も柏木にはいつも冷たい。いちいち癇に障る視線を向けながら、自分の考えとやらを押し付ける姿を見ていると、気位ばかり高かった母親を思い出し、余計にムカムカした。

 柏木の母親は、自分の価値観を絶対と信じている人だった。自分が世界の中心であり、他の人間は自分を楽しませ、傅くために存在していると思っている。子どもさえもアクセサリーの一部で、それは当然優秀で美麗でなければならなかった。
「貴《たかし》さんは良い子、頭も良くて見栄えもいい、私の息子ならそうでなければならないわ」
 母親はよくそう言って、柏木の二つ上になる兄を褒めた。もちろん柏木も、幼い頃は綺麗な母親に認められようと頑張った。だがどう頑張っても兄の二番煎じ、初めての出来事には感激する母親も、柏木の番になると興が冷める。学業の成績が良くても、コンクールで一等を取っても、校長からじきじきに表彰されても、全ては兄の通って来た道で、それはもう母にとっては当然のこと、褒められたことはなかった。
 兄さえいなければと、思わない日はなかったが、それで兄を排除するということはさすがにリスクが高すぎる。どこか自分の知らない場所で勝手に死んでくれればいいのにとだけ、思っていた。

 薄くなった琥珀の中に、夏の庭が光って見える。母親や兄の回想をするうちに、グラスの中の氷が割れ、カツンと小さな音がする。ハッとして我に返り、溶け出している氷を見つめながら柏木は、どこかで死んでくれればではなく、本当にやっておけばよかったと思った。
 
 

 

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