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アンモナイトマト

   

「自由。いいですね。僕も自由になりたいです」
「そんなこと考えなくなったらきっと自由なんだろうね」

 

 
 もうすぐ夜が明ける。
 建ち並ぶビルの窓は暗い。
「この道路まだ工事してるね」
 点滅するお花マークの工事用回転ランプがくるっくる、くるっくる。そこだけ小さな花火を上げているように。
 信号機の点滅。交差点は急ぐ足音も車のエンジン音もない。
 ロクローは私をおんぶしたまま、自販機に小銭を入れジイさんのようにゆっくりとしゃがんで出てきたイチゴミルクセーキを取り出した。
 ロクローの背中は汗ばんで暑い。だけど居心地は悪くない。私のいつもの目線よりも高い位置でゆうるゆうると動く街並みや街路樹、頬に当たる緩い風が呼吸する度に胸の奥に入ってくる。
「象に乗りたいな。インドに行ったら乗れるかな」
「インド?」
 ロクローがインドのドを上げ気味にのばして、あきれたような鼻息を吐いた。
「あーっ街の中をゾーに乗って歩きたい、ゾウに乗るごっこじゃなく本物に。パオー」
 おんぶしてくれているロクローには悪いが、きっととても楽しいに違いない。
 街は昼間の雑踏に埋もれていたたくさんのゴミがカラフルに路上に散らばって独自のアートを繰り広げている。その上には薄青い空。
 静かな空気が肺に吸い込まれて吐き出されて。繰り返しの呼吸が私と青を同じものにする。
 遠くでセミが土から這い出して木に登って、誰もいない横断歩道の信号が赤から青に切り替わって、アスファルトにビールの空き缶が転がっていて、その隣に割り箸がイコールの形に落ちてて、その先にげろが偶然にもビックバンだとか、バラ星雲だとかそんなものを想像させる星の集まりのように二度とない模様を作っていて、空はぷるるんとしたゼリーのように透明なままその地表のビックバンの際まで続いてる。
 それらはみんな薄青いフィルターがかかってる。なんつう海の底みたいな朝だ。
「あれさ工事じゃないぜ、遊園地の入り口」
「動物園じゃなくて?」
「昔夜中の動物園いったよな、なずながヤギは本当に紙を食べるのかとかいって」
「結局ヤギが寝てて、マンションの前に置いてあるダチョウの銅像見て帰ったんだよね」
「しょうもないな」
 ロクローが背中越しに笑ってるのがわかった。そんなことに気付く瞬間、ここにいてよかったなって思う。頭の中でいつもぶつぶつ呟いてることも全部どうでもよくなってくる。
「あの時ってさ、何にも考えてなかったよな」
「うん、今も」
 私達はアルコールも摂取していないのに、げらげら笑って夜明けの街を歩いた。私達の笑い声はかわらない。きっと、いつだってくだらないことで笑って、そうして死ぬまでしょうもないことを繰り返す。しょうもないことと価値のあることの違いなんて同じだとわからないまま。
「じゃあな、おやすみ」
「もう朝だけどね、お礼にアメちゃんいる?」
「いらない」
 ロクローは私の部屋の狭い玄関で腰を屈め私をどさ、と下ろして帰った。

 

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