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歴史・時代

東京探偵小町 第三話「にわか雨」 <1>

   

「あんなにきれいな色の目、見たことがないわ。それにね、ほら、『時枝』と『時雨』。名前に同じ字が入っているだなんて、なんだか素敵じゃない?」
「大変。時枝さままで、『御祇島シック』に掛かってしまわれた」

小説版『東京探偵小町
第一部 ―怪盗編―

Illustration:Dite

 

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 時枝、十六歳の誕生日と、女学校四年級への進級おめでとう。

 暮れに上海で会ったきりだが、元気にやっているようだね。
 ありがたいことに、おまえが日文矢文で手紙をくれるものだから、父さまも寂しい思いをしなくてすむよ。
 こちらは相変わらずだ。今、倫太郎くんや和豪くん、警視庁の道源寺警部たちと共に、「新橋駅連続殺人事件」の犯人を追っている。一日も早く、帝都を震撼させている、あの恐ろしい殺人鬼を捕まえなくては。なんと言っても、いまの帝都には、もう一人、厄介な怪人がいるものだからね。

 さて、おまえの十六歳の誕生日に何を贈ろうか、ずいぶん悩んだ。銀座の百貨店で、はやりの洋服や帽子を見てみたんだが、どれもピンと来ない。考えた末に、父さまの宝物をおまえに譲ることにしたよ。この箱のなかには、これまで父さまをずっと守ってくれた、ある大切なものが入っている。いつも父さまを守り、勇気づけてくれたものだ。
 おまえも勇気が必要なときに、この箱を開けてみなさい。
 きっと、おまえを守り、勇気づけてくれるだろう。
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 聖堂の隣にそびえ立つ煉瓦造りの時計塔から、古風な鐘の音が聞こえてくる。
 午前の授業が終わった途端、学院中に、女学生たちの笑いさざめく声が広がった。時枝の通う聖園女学院は、名門ゆえに学則も厳しかったが、ひとときの安息たる昼休みだけは、さまざまな自由が認められている。昼食を終えた時枝とみどりは、残りの昼休みを中庭の木陰で過ごそうと、教室から出てきたところだった。
「それにしても、おかしかったわ、さっきの修身の時間。『外観を飾る男に嫁するなかれ。いっそ男装した女性に嫁したほうがまし』だなんて!」
「わたくしは、なんとなくわかりますわ…………」
 四限目の修身の時間は、「男女処世の禁条」についてだった。
 一昨年の学制改正を受け、今年度から五年制となった聖園女学院では、旧課程で入学した生徒たちも五年制へと移行させた。同時に、四年課程で卒業した生徒たちのために、特例の五年級として専攻科を設けたが、そのまま学院に残って専攻科に進級したのは、十五人にも満たなかった。
 女子も男子と同じように学問に親しむ時代になったとは言え、世間には「五年制は長すぎる」という声も多い。実際に娘を女学校に通わせている親たちもまた、似たような意見を持つ者が少なくなかった。
「だって、とてもお慕いできないような殿方のもとに嫁がされるくらいなら、生涯独り身でいるか、そうでなければ、女のかたにお嫁入りしたほうがましですもの」

 

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