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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第23話 苦しみをまた一つ

   

陰謀と悪意、そして信じたものの為、幼き王女は立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「『行かないで』と…言うべきだった」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

それは、来たるべき時の為に。

 

 

***

「レイシー」
「…………」
「…エリザ…?」
「…………」

 ルイスが私を呼んでいる。それなのに、私は言葉を返すことも出来ずに、ベッドの上で両足を抱えたまま、“泣いていた”。名前を呼ばれる度に、涙が溢れてくる。
 こうして動かしても、痛みの走ることのない足。何ら違和感なく曲げることの出来る腕。怪我による体の痛みはもうほとんど取れたと言うのに、それでも胸が突かれるように痛む。

「こっちを見て」

 ――――無理だよ。

「大丈夫だ」

 ルイスの声も、震えていた。その声に引き寄せられるようにして、私は顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、彼を見上げて、歯を食い縛った。

「大丈夫」
「うっ、ぅう…」
「必ず、“ピクシスは戻って来る”」
「あっ…ァァァアアアアア!!!!」

 しゃくり上げて泣きだす私の体を、抱え込むようにしてルイスは強く抱き締めた。その体に縋りながら、私は叫ぶ。声が枯れるほどに、体が強張るほど、叫び続けた。

 『ピクシスが行方不明になってから、今日で半年が経つ』。

 半年前、この町にカーネットの兵が訪れた。馬に乗り、現れた彼等の目から、私とルイスを隠す為に、私達がプランジットに来たという一切の痕跡を絶つ必要があったのだ。その役を志願したのが、ピクシスだ。町でも名の知れた医者である彼ならば、車を運転して町の外へ出ても兵に疑われることはないだろうと判断したが故だった。その考え通り、彼は無事、車に乗り込み、町を出た。そこまではよかったのだ。後は、遠方で車を処分し、戻って来るだけ。そのはずだった。それなのに――――“彼は、私達の元へは帰って来なかった”。
 もちろん、しらみ潰しに周辺を探した。彼が通ったとみられる道も全て、臣下達の手によって調べ尽くされた。私とルイスも、彼の足取りを探して何度も話し合いを続けたけれど、ついにピクシスは見つからず、今日で半年も経過してしまった。

 あの日、ピクシスが町を出た後、カーネット兵も間もなくプランジットから去って行った。だが、ピクシスとは真逆の道を行った兵士達が、彼の失踪に関与しているとは考えにくい。何の証拠も、手がかりもないのだ。車を処分した事実もないことから、“車ごとピクシスが消えた”としか、考えられなかった。
 

 

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