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ハートフル

お仕事です! 第1章:樋渡和馬VS住所不定無職-3

   

派遣コーディネーター、目指すはプチニート達の星!?
 
 

就職活動が上手く行かず、無職プチニートになりかけていた僕・樋渡和馬が見つけたのは、「派遣コーディネーター」という仕事だった。
面接される側だった僕が、面接する側になる……それだけでも刺激のある毎日だと思っていたけれど、面接希望でやってくる人々は十人十色・百戦錬磨の強者ばかり!?

これはそんな新人・コーディネーターの僕と、僕の教育係で通称「おてんとさん」こと天道凪子の仕事奮闘記である。
 

樋渡和馬、ニートたちの星になるべく奔走す! ついでに試用期間の二か月間も乗り切れ、和馬。

 

(4)

 

 僕と天道さんが再びブースに戻ると、先ほどの男性は落ち着きのない様子でブースの中をきょろきょろとしていた。
 ―――おいおい、その時点で就職活動はアウトだぜ。僕は思わずそう突っ込みたくなるも、何とか言葉を飲み込む。
 そんな僕をよそに、天道さんは相変わらずの笑顔で男性の目の前の席に座った。そして、僕が横に座ったのを確認すると、早速男性に話しかけた。

「それでは本日お越しいただきありがとうございます」

 まずは天道さんが男性―――そう、口と鼻の間にちょびっと髭が生えているので「チョビヒゲ」と僕は心の中で呼んでみたが―――チョビヒゲに挨拶をする。
 僕も、見よう見まねで頭を下げた。

「どうも」
 チョビヒゲはそんな僕らに軽く頭を下げるも、その直後に、面接も始まる前から一方的に切り出した。

「仕事探してるんですけど、でもまず寮を今日中に出ないといけないって言われてて」
「え?」
「だから、すぐに寮入れるところあります? いやね、他のところにも聞いてはいるんですけど、こちらが早ければこちらでと」

 チョビヒゲはそう言って、天道さんを胡散臭そうな笑顔を浮かべてみている。

 来た、コレ。
 さっき、天道さんが言っていたケースにもろ当てはまるやつだ! 僕は思わず声をあげそうになるも、とりあえずそれを飲み込んで様子を見守る。
 しかもこのチョビヒゲ、明らかに担当者が女性というのでなめてかかっているようにも見える。
 横にいる頼りなさそうな僕はともかく、優しそうな天道さんにちょっとカマでもかければ、どうにかなるとでも思っているのだろう。

 ―――なんて腹立たしいチョビヒゲ野郎。でも、今の僕にはこのチョビヒゲをやりこめるスキルも知識も無い。なんせ入社一日目だし。
 僕がそんなことを思っていると、

「……今は寮に入られていると言うことですが、お仕事自体は今、どちらかでされているんですか?」
 天道さんが例のアニメ声かつ笑顔のままで、チョビヒゲにそう質問した。

「仕事は昨日まで。寮は直ぐ出ろって言われてて。酷いよね。でもほら、求人誌に即入寮可ってオタク書いていたでしょ?」
「ええ。今ですとお隣の県にでしたら空いている寮がありますね。こういうお仕事で」

 そしてチョビヒゲに空き寮近辺の仕事情報を見せた。すると、チョビヒゲはそれをろくに見もせず「じゃあそこで」と言い放つ。
 そのチョビヒゲの様子に、僕は思わず「え」と声を漏らしてしまった。直後、慌てて咳払いをして誤魔化したけれど、それでも驚きは隠せない。

 ―――普通、自分が就職する仕事の条件くらいはちゃんと見るものじゃないのか?
 何かこれだと、仕事なんてどうでもいいから、とにかく寮に入りたい―――そう言っているかのようだ。いや、実際そうなのかもしれないけれど。少なくても僕にはそう見えた。
 それに、寮付きで仕事をしていたんだから、仕事を退職したら即退寮するのは当たり前。「酷いよね」というけれど、酷いのは退職しても寮に居座るチョビヒゲではないのか。
 さっき、「昨日まで」とか言っていたが、もしかしたらもう少し前に退職、もしくは無断退職をしていていよいよ強制退去させられそうになって、こうして無理難題を吹っかけてきているのかも。
 そう考えると、このチョビヒゲを採用するのはかなりリスクがある様な―――入社一日目の僕でさえ、はっきりとそう感じた。

 こんなタイプの人間、見たことが、いや出会ったことがない。
 今目の前で繰り広げられているこの光景は、本当の本当、現実か。そんなことさえ思ってしまう。
 こういうタイプの人間は、ニュースやドラマなんかの中だけに出てくると思っていたけれど、まさかこんな身近で遭遇するとは。顔に出さないように努力はしているけれど、きっと唖然とした僕の表情は天道さんにもチョビヒゲにも伝わてしまっているだろう。

 でも、そんな僕をよそに、二人のやり取りは続いている。
 

「では赴任のことですが」
「ああ、実は今お金ないんですよ。赴任費って前借できないんですか? 他のところは電車費と荷物代も出してくれたけど、ここは違うの?」

 ―――なんと今度は、チョビヒゲは自分が他県の寮に赴任する為の費用を前借させろとまで言ってきた。

 一般的にこういう派遣会社では、他県の寮などに入る場合、「赴任費」と言うものが出るところも多い。
 ただしその場合は、赴任費用は一旦自分が負担しておいて、その後清算、初回もしくは次の給料時に振り込まれると言うケースがほとんどとのこと。
 会ったばかり、登録に来たばかりの上に得体の知れない男にいきなり切符なんて渡したらすぐに換金されそうだし、現金なんて渡せば持ち逃げしかねない。

「それさえしていただければ、すぐに赴任も出来るんですけどねえ」

 チョビヒゲは、狡猾な笑みを浮かべながら天道さんを見ている。

 人、いないんだろ? 働いてやるから、こっちの条件も飲んでくれるよね? ―――チョビヒゲはそう言っているようにも見える。

 有効求人倍率の全国平均も、一.三〇を超えるようなこのご時世だ。
 仕事はあっても人はいない、というこの状況を、チョビヒゲはわかりきっている。だからこそ、こうやって派遣会社相手に駆け引きをしてきているんだろう。
 これぞまさに、派遣会社を渡り歩いている証拠。
 一昔前ならば、こんなやつ絶対に採用しないのにというところだけれど、人不足の今はそれもままならない。
 

 さあ、どうする天道凪子。
 入社八年目のベテラン「おてんとさん」でも、こんな相手には流石に手を焼くのでは―――僕はチョビヒゲと天道さんを交互に見比べながら成り行きを覗っていた。

 そんな中、とうとう天道さんが状況を動かす。
 それは先ほどと同じ笑顔だった。天道さんは笑顔のまま、例のアニメ声でチョビヒゲに言った。

 

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