幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ショート・ショート

通学時妄想症候群

   

妄想のハナシ。

 

 今日は4時間くらいしか寝ていない。いつもの睡眠時間はその2倍だから、あまり寝ていないことになる。いや、だから何なのだろうか。
 家から駅へ。
 途中、『初めてのキスの感覚』を妄想して、今にも込み上げてきそうなニヤつきを堪えたら、口元がプルプルと震えてしまった。
 同じ学校の制服を着た男女は私より下の人間たち。それは私が偉い人間だからということではなく、ただ単に後輩にあたる人間であるから。そしてそれらは同じ地点まで歩き、同じ電車に乗った。私も。
 途中、『もし私の目の前に下半身露出男が現れたら、股間のモノを握りつぶすか、そいつを動けなくして仰向けに寝かせ、まぁるい鉄球を157cmの地点から落としてやろうか』という妄想をして、顔全体が半笑いになった。
 電車に乗ると、目の前に座っている女子高生が大股開きでテスト勉強をしていた。そして彼女の前に私は立っている。
 ピンクのマーカーが引かれた重要な語句たちが私の目に映り、私は持っていた携帯を開く。どうでもよかった……わけでもない。携帯を見つつ、彼女のテスト勉強のプリントを見るという作戦だ。でも私は友達宛てのメールを書き出してしまったから、そのことなどにはもう興味が無くなっていた。
 そして私はある視線に気付く。目の前にいる女子高生からだった。私のことを睨んでいるのだろう。それがいやで私は彼女から視線をそらせたのだけれど、彼女は未だにこちらを見ていた。でも私は音楽を聞いているから、そんなのは平気だった。
 気付くと、もうすぐ終点だった。私は急に気になり出した。何が。彼女のテスト勉強の、ピンクのマーカーが引かれた重要な語句が。目を凝らして見えたものは、小さい丸字で書かれた『堀』と『風立ちぬ』。しかし、名は見えたものの『タツオ』の漢字がわからなかった。その訳は、彼女がテスト勉強のプリントを仕舞ったから。そのせいで私は『タツオ』の漢字がわからないままになったし、きっと知ることもない。しかし、終点に着いて電車のドアが開いてから、やっぱり気になり出したけれど、電車から降りたとき、男の革靴の踵を踏んでしまったから気にならなくなった。
 ぼんやりと歩いて。
 途中、『おととい辞めたバイト先の先輩に声をかけられる』という妄想をしてまた半笑い。
 ちょうどバスが着ていたので乗ったら3人に睨まれた。やっぱりいやだなあと思った。でも平気だった。私は窓側の席に座って、目を閉じて……。
 「10分間は異世界から帰って来ないから、誰も起こさないで下さい。」
 私は第2の口で言ったのだけれど、誰からも返事は返ってこなかった。

 

-ショート・ショート