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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<28> ~【かふぇ みょうが】と姉妹の話~

   

今回は私の夫、明賀 タカアキさんのお話。
タカが経営する【かふぇ みょうが】で、流れ者の親子の噂が出てるんですって。
でもね、タカが会ってみたのは親子じゃなくて、なんと姉妹!
それもかなり大変な状況らしいのよ。世の中ままならないわねえ。

『【かふぇ みょうが】と姉妹の話』、どうぞご覧ください。

 

 
 モモヨさんと直くんが秋の手帳フェスタで四苦八苦しているとき、松野沢にいるタカアキさんも四苦八苦していた。
 行くあてのない姉妹が【かふぇ みょうが】にやってきたのだ。
 

 その母子の噂は常連のご老人たちからなんとなく聞いていた。
 とくにいっとう土地持ちのれんげばあちゃんが、店に来るたびに紫のサングラスを光らせてどっちり肉のついた腰を捻るようにタカアキさんに迫っては話をしていた。
「タカちゃん! あの空き家、ほら、この道を一本行って……」
 一本行ってずーっと行って、とっつきにいる母子のことをれんげばあちゃんはことあるごとにタカアキさんに報告する。
 タカアキさんはモモヨさんが嫌うぴたりと閉じた松野沢の空気を受け流す。「あの子ね、小学校いってないけど大丈夫かねえ?」
「小学生なの?」
 新聞に目をやりながらきくと「だってそのくらいの年齢でしょう?」と返ってきて、タカアキさんは肩をすくめた。
「こないだ保育園て言ってなかった?」
「そうそう。でも、違うみたいだから小学生かと思うんだけどねえ」
 行ってないんだってねえと繰り返すと、ランチAのマグロの刺身を口に運んだ。
 山の上で食う刺身は旨いだろうなと作った本人は食わずに思う。
(場違いな感じがいいんだろうな)
 ランチAはウケがいい。けれど
(仕入れがなあ……)
 高い。
 だからランチAは、ほかのランチより三百円高い。
 それでも人気メニュウなのだから、珍味のようなものなのだろう。
「あの空き家、ばあちゃんちの物?」
「そうなの。貸したのは主人なんだけど、なんかねぇ」
(なんかねぇ……か)
「だってお母さんのほう、挨拶も出来ないのよ」
「その人、どこの出? 今、挨拶しない人多いでしょ。防犯だとか言って」
 どこだったかねぇと首を捻ったばあちゃんに、
「ありゃこっちのモンじゃねえよ。山の向こう側らしいぞ」
 年金前だからとランチBのサバの味噌煮をかっこむもちはるじいは米粒を飛ばす。
「そうなの?」
 新聞の貧困の文字に目が引っかかり、タカアキさんの眉間に皺がよる。
「みんな言ってるよ。流れモンだってな」
「へえ」
(山の向こうが出身かどうかは分からねえってことか)
「聡子が訪ねていってもあがらせなかったってよ」
 お茶の一杯くらい出さなきゃねぇ! とれんげばあちゃんが目をむく。
 松野沢町役場の保健予防課の聡子さんはもちはるじいの娘だった。
 なぜかもう少し話を聞きたかったが聡子さんの話題から話は流れしまって、タカアキさんは〝挨拶の出来ないお母さん〟と〝保育園にも小学校に行っていない子ども〟のことを考えつつも、いつもどおり振る舞った。

 

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