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ラブストーリー

恋する僕ら-約束のしかた<7>

   

二つの恋物語が折り重なる、恋する僕らの第七話をお送りします。
どうぞご堪能下さいませ。

***抜粋***

 離れたくない。理沙と一緒に居たい。
 だけどそれが無理なら。
 いつかは別れるしかないのなら。
 今のうちに、離れるしかない。
 心の中に沸いた熱いどろどろとした気持ちが、喉元を過ぎて溢れ出してくる。
「やっぱり僕、村山さんの所に行くね。今からダンパ、行ってくる」
「なにを、言ってるのな?」

 理沙の声が右から左へと抜けていく。
 頭が真っ白になった。

******

 

「ダンパ、行かなくていいのな?」
 ずきん。
「……え?」
 理沙の呟きが、僕の心臓をわしづかみにした。かこんと、まるで引っ掛かっていた何かが外れたような感覚が背中を抜けた。
 みし。
 隠し事を見抜かれた僕の心が軋みを上げる。
「何の話?」
「時間、な」
 理沙は僕の顔を見てこない。ただ髪の毛を僕に向け、理沙は沈もうとする夕日を眺め続けていた。まるで病弱の床に就く哀れな乙女のような、可憐な、でも儚い背中で、僕に語り続ける。
「もも、ダンパ、誘われてたのな? 理沙は、誘われなかったのな? もも、行く気だったのな?」
「……あ、の、え?」
 僕の喉が、言葉にならない声を上げた。
 鞄を持つ手が震えた。自分でも、動揺しているのがよく分かる。理沙がどうしてその事を知っているのか。僕は裏切ってない。そんな事じゃない。
 僕が理沙を裏切ろうとしてしまった事を、彼女は知っていた?
 体操服の中を、冷たい汗がつうと伝う。
「知って、たの?」
 尋ねる声が震えた。理沙の顔が、ゆっくりと僕を向く。その瞳は優しげで、責めるような感情は微塵にも感じられなかった。
「理沙、ももが誘われたの知ってたのな。村山ちゃん、可愛いからな。二人で喋ってるの、見てたのな」
 見られていた? 理沙に?
 その事実に、声が出ない。
「理沙、焼きそば買いに行く時、一緒に行こうとしたのな。そしたら、見たのな」
 理沙の一言一言が、終えた罪悪感を復元させていく。
 負の感情、といえばいいのか。
 僕の中で、何かが込み上げてくる。
 保健室の時計の針が、かちこちと規則正しい音を鳴らしていた。
「隠れて、見てたの?」
「理沙、寂しくなったのな。だから部屋に戻ったよ。聞かなかったふりをしたのな。でもな?」
 ベッドの中に座ったまま、理沙が俯く。小さな指がシーツを握り、薄いシワが寄った。理沙の唇が、柔らかい笑みを見せた。
「つらかったのな」
「あ、の」
 理沙の言葉使いはたどたどしくて、酷くわかりにくいと思った。なのに今の僕にはその気持ちが百二十パーセント伝わって来て、それが分かるから、返事ができない。
 理沙は僕が、村山さんとダンパに行く約束をした事を知っていた。
 僕が、断らなかった事を知っていた。
 それを、つらいと、言ったんだ。
 俯いた理沙の表情は見えなかった。夕日の逆光のせいで、余計に見えない。
「行かないよ。もう断ったから」
 いや、見えない。
 理沙はきっと、笑顔だろう。僕を困らせないよう、必死に笑顔を作っている。それがわからない、わけがないじゃないか。
 だからこそ苦しかった。理沙が辛そうに笑って、くれるのが嫌だ。
「何であの時、断らなかったのな? 理沙のせい? 理沙が倒れたから?」
 理沙の頭が持ち上がった。
 どこもが真っ白い保健室の中で、可憐に咲く花のように、やんわりとした面持ちの理沙が尋ねてくる。
 僕は鞄を手に、ただ立ち尽くす。理沙を見下ろし、今にも言い訳をしようとしてしまう自分を必死に押し殺す。
 駄目だ。
 今の僕は、理沙の優しさを……。
 受け止められない。

 

-ラブストーリー


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