幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

12月

   

 12月。
 何かとやることの多い月ではあるが、ピアノフォルテではクリスマスコンサートを行うにあたってのミーティングが執り行われた。

 そして、数日後の業務終了後。
 大和はマスターの業務終了を駐車場で待っていて、現れたマスターにある相談をもちかけ始めたのだった。

 

 
 12月は、何かと忙しい。
 11月が終わってしまうと、ピアノフォルテはとてつもなく忙しくなる。
 12月は、クリスマスコンサートを行うのが毎年の恒例行事なのだ。
 ホールスタッフのみならず、楽器演奏可能なスタッフは楽しく音楽を演奏する。
 その曲目の発表が、それぞれから発表されるのだ。
 12月に入って最初の日曜日に、ピアノフォルテで昼食会が開催された。
 全員参加の、楽しい会である。
 諒も子どもたちを連れてきて、昨年よりもにぎやかな会になった。
 今回も、マスターがとにかく一生懸命腕によりをかけてオードブルを作った。
 12月の昼食会は、オードブルと決まっている。
 オードブルにしてしまえば、マスターも会話に参可能である。
 料理長の広明も料理の製作に加わるため、手早くしかも大量に料理が仕上がる。
 カウンター席もテーブル席も、好きなように席について雑談する。
 バラバラなはずなのパーティなのに、席こそ離れていても一つの話題でみんな話すから、やはりここのスタッフは仲がいいのだろう。
 接客のことで話に上がったのは、やはり美佐子のことだった。
 たまに顔を出すが、前のような横暴は行わず静かに飲んで帰るいわゆる普通の客である。
「不気味ではあるよね、最初が最初だったから。」
 飛由のそれに、みんな納得である。
「このまま静かだといいんだけどね。またねじ伏せるのも手間でしょ?」
 すました顔で言う和彩に、若干引き気味の男性陣。
「いいよ、うるさかったらまた私が叩いとくから!」
 カウンター席からフライドチキンをかじりつつ、亜美がテーブル席で酒を飲む和彩に声を投げる。
「あんたがいるから、多分あの人も静かなんでしょう。たまにあんたがいないときに来るけど、ちょいちょい厨房から出てくるからそのまま静かにせざるを得ない状況なんでしょうね。」
 すました顔で述べられる和彩のそれに、亜美は満足げにニィッと笑う。

 ──女って怖っ!!

 男性陣の肝が一瞬で冷え切った。
 二人のやり取りをカウンターの隅で豪快に笑いながら聞く広明。
 大和は広明にそっとひじ打ちをして、ちょいちょいとこちらに耳を見蹴るように手招きをする。
 どうした?と小首をかしげて大和に耳を貸すべく、大きな体をかがめて大和に耳を傾けた。
「嫁さんも妹も怖すぎない?」
 怯えきっているその声に、広明はまた笑った。
「慣れだよ!慣ーれっ!!」
 ガッハッハ!とまた大きな声で笑う。
 広明の豪快さと心臓の強さには、男性陣全員が感服する。
 
 

 それからまた話題が変わっていって、今年のクリスマスコンサートの曲目についての話になった。
 ピアノフォルテのクリスマスコンサートは、言わずもがな相当な人気がある。
 本当ならば来店する客には全員店内に入ってもらいたい。
 しかし席の数と料理の事情で、人数がどうしても限られてしまうのだ。
 毎年毎年抽選で当たった人が、コンサートへの参加の資格を持つことになる。
 年々倍率も上がっているため、曲目選びも演奏者側の向上心を煽る。
 難曲を選ぶもよし、聴かせる曲を選ぶもよし。
 その人の技量が存分に発揮されるものならばそれでいいのだ。
 どんな曲にするかでも、毎回食事会は大いに盛り上がる。
「皆さんどんな曲を選ぶんですか?僕、初めてだからどんな曲にしていいかわからなくて…。」
 すこし遠慮がちに諒が口を開けば、みんな“そういえばそうか”と納得する。
 諒は確かに今年初めてのクリスマスコンサートを迎えるわけだが、なんだかんだ仕事以外でも食事などでよく顔を合わせているから、もう新人という感覚が抜けてしまっているのだ。
“初めてだから”と言われるたびに、そういえばまだここにきて一年もたってなかったのかと内心みんなそう思う。
「同じ楽器の人から選曲を聞くのが参考になるだろな。」
 大和はそういいながら、カウンターからテーブル席の速斗に目配せした。
 それにこたえるように、速斗がうなり声をあげる。
「ん~!なんだっけなー…。毎年違う曲なのは覚えてるんだけど…。確かドビュッシーの月の光だったけ…。」
 普段から複数の曲を抱えているから、記憶がごちゃ混ぜになってしまう。
「俺は即興演奏と、リストの愛の夢だった。」
 諒の隣の席の心治が、静かにそう言って膝の上に座っている笑里の口元をタオルで拭う。
「即興演奏とかでもいいんですか?」
「アンコールだったんだ。何の用意もしていなかったから、即興で弾いた。」
 諒の質問に、涼しい返答をする心治。
「超絶技巧の即興曲だったやつでしょ?」
「これでもかと派手にしたことは覚えているが、何せ即興だったからどんなものを弾いたかは覚えていないな。」
 心治のそれに、質問した速斗は笑いをかみ殺した。
「なんだっていいんだよ。自分の弾きたい曲なら何でもいい。しっとり聞かせるようなセレナーデでもいいし、ジャンジャンど派手な曲だっていい。好みで選べばいいんです。」
 諒には一番難しいかもしれないが、これを機に少し自分の好みを振り返ってくれればいいと皆思うのだった。
 
 

 

-ノンジャンル
-, , , , , , , , , ,


コメントを残す

おすすめ作品