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ラブストーリー

恋する僕ら-約束のしかた<8>

   

二つの恋物語が折り重なる、恋する僕らの最終話をお送りします。

喧嘩して、仲直りして。
そして二人は、仲直りし過ぎた。

***抜粋***

「理沙、ももに何かしたいのな。ももが喜ぶ事、何でもするのな」
 そう言った理沙が一度僕から離れ、ベッド脇にある上履きを履き直す。そんな様子を眺めながら、理沙はまた「何がいい?」と零してくる。そのほっぺはまだ少し赤らんでいて、ちょっとだけ理沙らしくない気もした。
 だけどそんな理沙も可愛い。
「さっき、してくれたよ? えっと、キス」
「待つのな。あれは、ももから、だからな? 理沙からじゃない、よ?」
「え、嘘っ? あれ、僕からなの?」
「うん、そうなのな」
 僕の言葉に、理沙が唇を尖らせた。

******

 

「んっ、ん」

 初めてのキスはすぐに終えた。
 だけどそれからした二度目のキスは、どちらともなく長くなって。気が付くと柔らかい理沙の舌とか、小さな歯とかを、なぞっていたり、して。

「んっ」

 まるで示し合わせていたように。
 僕らは何度もキスをした。
 今までしてなかった分を含めて、何度も、何度も。

 僕は理沙とキスをした。

○○○

「ん、ん」

 保健室に、小さな声が漏れる。

 僕と理沙は一緒だった。
 だからそれを、当たり前だと思った。

 あるいは最初からそうなるはずだったのかもしれない。理沙の唇はやたらと柔らかくて、マシュマロみたいにふわふわしていた。
 理沙は力の抜けた蛸みたいにふにゃふにゃになってしまって、僕は僕で、そんな理沙を抱きとめるのに必死だったりして。

 不慣れな二人は、経験を積むように何度もキスをした。それからどちらからともなく離れた僕らは、互いに息を吸って、笑って、視線を逸らした。

 だって恥ずかしかったから。
 いきなりディープはないよと思った。
 しかもあれだけ喧嘩しておいて、どうしてこんな熱烈なキスしたのかがわからない。いや、どうして今までキスしなかったのかがわからない。
 だって僕は、理沙をこんなに好きなのに。
 こんな柔らかい唇を、舌を、どうして僕は今まで味わおうとはしなかったのかが悔やまれる。
 若干の沈黙が保健室に滞る。
 だけど気まずくはなかった。
 別の意味で、気まずかったりはしたけれど。
「もも」
「ふぇぁう、あ、うん?」
 ふと我に返った理沙が、僕の手を握ってくる。一瞬どきっとしたのは、理沙の唇の感触が頭を過ぎったからだ。
「理沙、ももに何かしたいのな。ももが喜ぶ事、何でもするのな」
 そう言った理沙が一度僕から離れ、ベッド脇にある上履きを履き直す。そんな様子を眺めながら、理沙はまた「何がいい?」と零してくる。そのほっぺはまだ少し赤らんでいて、ちょっとだけ理沙らしくない気もした。
 だけどそんな理沙も可愛い。
「さっき、してくれたよ? えっと、キス」
「待つのな。あれは、ももから、だからな? 理沙からじゃない、よ?」
「え、嘘っ? あれ、僕からなの?」
「うん、そうなのな」
 僕の言葉に、理沙が唇を尖らせた。怒っている、風には見えない。どちらかと言えば拗ねている。っていうか僕から? そんなはずはないんだけど、理沙が言うならそうなんだろう。
 きっとさっきのは、僕からキスしたんだろう。あんな、ディープなキスを。
 うう。
 そう思うと、何だか僕が悪い気がする。
 そんな僕に、理沙が一歩、歩み寄ってくる。
「だから今度は、理沙が」
「っと、また、するの?」
 改まって確認すると何だか間抜けだ。
 だけど僕の確認に、理沙は首を横に振ってくる。じゃあ、何だろう。
「違うのな。もっと、別の事、な」
 理沙の指が僕の体操服を掴んでくる。そういえば学校の帰り、僕はこの姿で下校しなきゃ駄目なんだろうか。ちょっと恥ずかしいな。
 なんて事を考えていると、理沙の顔が床へ向けられた。小さな指が僕の腕を掴み、まるで抱っこをせがむ子供のような、愛らしい様子を見せてくる。
「理沙?」
「い、痛くても、我慢するのな」
「へ?」
 理沙の唇が、掠れた声を出した。その言葉の意味が解らなくて、僕は首を捻る。何が痛いんだろうか。よくわからない。
「ももがしたいこと、何でも理沙は聞きます」
 少し口調を変にしながら、理沙が顔を持ち上げてくる。その瞳には強い意志が垣間見えて、見守る僕の喉がごくんと鳴った。
「何でもするよ?」
 理沙の長い髪の毛が、窓から吹き込んだ風でふわりと揺れた。夕日を背に立つ理沙の姿は、まるで聖母のように神々しく見えた。
 どくっ、どく。僕の胸が高鳴る。理沙の肩が震えていて、僕はそんな理沙をまた抱きしめたくなって、その気持ちのままに行動した。ぎゅうと、理沙を抱きしめる。
 どうしよう、可愛い。なんか、理沙を見ていると、僕は。
「理沙、僕」
「うん」
 僕の胸に顔を埋めながら、理沙が頷く。胸に宿った熱い何かが、僕の喉元を過ぎていく。
「僕さ」
「うん」
 理沙の腕が僕のお腹に回りこむ。優しく抱き合いながら、僕は言った。
「理沙の絵が描きたい」
 と。

 

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