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ミステリー・SF・ホラー

地下室のスケッチブック(前編)

   

青年は同人即売会でいつもホラーマンガを売っていた。
そのマンガとは、お化けの女の子の物語だ。

普段の彼は、零細のアニメ会社に勤務している冴えない絵描きである。
お化けの女の子を描くことに生きがいを感じる彼は、いったい、何を隠しているのだろうか?

 

「お兄さん、このお化けの女の子のマンガ、一冊ください」
「はい、まいど。五百円になります!」

 今日は、東京にあるとある物流センターで同人誌即売会が開催されている。オリジナルな創作物を販売する即売会なので、通称、「コミックオリジナル」と呼ばれている。サークル参加している俺ももちろんオリジナルなマンガを売っているところである。

 一般客入場が午前十一時からであり、現在時刻は正午を回るところなので、開場時の客の勢いが途絶えてきたところだ。
 俺は個人サークルで一スペース分の場所を貸してもらい、机には「お化けの女の子のマンガ」をあたり一面に広げている。今日は新刊も出せたので、全部で五種類のマンガを出すことができた。

 個人サークルなのでもちろん俺がサークル主である。ブース内部には俺だけしかいない。売り子も雇おうと思えばネットででも募集をかけて雇えないこともないが、あまり他人の力を借りるのは好きじゃないので、いつも俺一人で運営の全てをやっている。

 さて、正午だな。

 俺は腹が減ったが、ブースを無人にするわけにもいかないので、先ほどコンビニで買ってきたサンドイッチとウーロン茶を愛用の鞄から取り出して、パクつき出した。

「どうよ、お隣さん。そっち売れてる? さっき一冊、売れてたね?」
 隣のブースの主が話しかけてきた。

「いえいえ、全然売れていませんよ。今やっと一冊、売れたところです。そちらはどうですか?」

「いやあ、さっぱりだねえ。うちは小説でね、なかなか買ってくれる人がいないんだ。推理小説なんだけれどさ、前回売上ゼロだったんだよ。今回は一冊でも売れることが目標かな」

 同人誌即売会でサークル参加していると、こうやって隣同士のサークルで軽い世間話をたまにすることがある。俺は人と会話すること自体、実は好きじゃないんだが、まあ、今日はお祭りだ。隣のサークル主なんて今日一日が過ぎたらめったに再会することはなく、少なくとも俺の日常生活には関わりのない人間なんで、気楽に話せる。

「あ、これよかったら、どうぞ」
 隣のサークル主が売れない推理小説を俺に手渡した。

 そんなに売れてない物ならいりません、とはさすがに言えず、作り笑いを浮かべて、とりあえず頂いておく。

「ああ、すみません、ご本を頂いてしまって。お返しにマンガをどうぞ」
 まあ、こういう場は俺も返すのが礼儀だろうと思い、お返しにと新刊を渡す。

「へえ、お化けの女の子が主人公のマンガですか。ホラーをお描きになるんで? いやあ、僕もね、お化けの話が大好きなんですよ。ほら、去年だったか、大ヒットした同人ホラーゲームあったでしょ、あれ、何だっけ、ああ、『かまいたちの鳴く頃に』だっけ?」

「ははは、そんなゲームもありましたね。まあ、私の描くマンガは超マイナーマンガなんで、あまり期待しないで読んでください。冴えないホラーマンガなもので……」

 ここで一度、会話が途切れた。

 隣のサークル主は俺のマンガを二、三ページめくったら、一度閉じて鞄に閉まった。代わりに鞄からコンビニのおにぎりらしきものを取り出して、昼食の準備に取り掛かった。

 俺も特に会話をしたいわけじゃないので、自分のサンドイッチを食べ直す。

 

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