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ラブコメ

恋シミュごっこ<後編>

   

オタ男・秋村葉にライバルが出現?
プレゼントを巡って、男たちが戦います。
メイドさんとの「大事なお約束」は果たせるのでしょうか?

リアルとバーチャルが錯綜する電脳都市で、衝撃の結末がオタ男を襲う!?

 

─ 3 ─

 

 俺が店を出ようとしたその時。

「おい、おまえ、葉。ちょっと、待て。話がある」
 店の裏路地から包丁を右手に持った男が現れた。
「あ、おまえは!」
「話はメイドたちから聞いた。ひとつ忠告する。うちの店に対して、余計なことはしないでもらいたい」
「リョウジロウ、まずは話し合おうよ? 落ち着こうよ? 包丁は下してくれ!」

 リョウジロウと呼ばれたその男は、このメイド喫茶の厨房の奥でメイドたちに料理の指導をしている料理長である。年は二十代半ばぐらいだろうか。外見はいわゆるメガネのイケメン。なおこの男の本名も俺は知らない。
 ちなみに彼の存在は、この店では秘密だそうだ。客たちは飽くまでメイドたちが作った料理を味わっているという建前になっている。
 俺がある日、メイコを店の外に連れ出そうとしたとき、奥の厨房から彼が出てきて、口論になったことがあったのだ。そういう訳でお互いに存在を知っている。
 俺が見るには、おそらく彼もメイコを狙っている。それもどうやら古くからの知り合いらしく、いつこの男がメイコに告白をしてもおかしくないので俺は冷や冷やしている。

 リョウジロウは包丁を下して背中に隠した。
「ああ、悪い。厨房から包丁持ってきたままだった。別に悪意はないさ。急いでいたから、つい……」
 リョウジロウは、何ともないような口調で続けた。
「で、うちの社長に渡す誕生日プレゼントを、なぜ部外者のおまえが買ってくる?」
「なぜって、メイコに頼まれたからに決まっているだろう!」
「バカ言わないでくれよ。その依頼を受けたのは、俺だよ。俺も後で社長のプレゼントを買いに行くつもりだったんだ」
「そうか? でもおまえが頼りないと思ったから、メイコは俺に改めてその話を振ったんだろう? 店員でもない俺がメイコに頼られたことがそんなに悔しいか?」
「いや、悔しいとかそういう話じゃなくてさ。これ、立派な業務妨害だと思うが。なあ、葉さんよお、人の会社の営業の話なんで、部外者はこの件から退いてくれないか?」
「なんだと、このやろう!」

「ちょとお、二人とも! 店の前でけんかしないで!」
 店の前で俺とリョウジロウが言い争っていると、周囲の注目を引きつけてしまう。
 それを見ていたメイコが店から慌てて出てきた。
「メイコ、話がある。おまえ、こいつにも社長のプレゼントの件で相談したのか?」
「ええ、したわよ」
「俺の何が不満だった?」
「リョウジロウ君、私がその話振ったとき、調理している最中だったから、ああとか、うんとか、適当に返事していたから、話なんて聞いていないんだと思ったの。それだったら、私の話をいつもちゃんと聞いてくれる葉君に頼もうと思ったのよ!」
「ちょっと待ってくれ。これは俺たちの店の話だろう? 葉さんは飽くまで客だ。客に対して社長のプレゼントを買って来い、はないだろう?」
「いや、だから私は相談をしただけで……」
 メイコの立場がちょっと悪くなってきている。
「リョウジロウ、悪かった。俺が勝手にプレゼント買ってくる、と言ったんだよ。その件については謝るよ」

 メイコは腕を組んで何かを悩んでいた。
「そうだ! いいこと考えた。二人ともプレゼントを買ってきてくれればいいのよ! それで社長のお気に召す方をプレゼントすればいいのよ!」
 なるほど。つまり、プレゼント対決か。そしてこの対決に勝利した者が、今まで以上により強くメイコのハートを射止めることができるようになるということか……。さらにうまく行けば、勢いで告白してしまって、付き合うなんてことも……。

「いいね。その勝負、乗ったよ。勝負だ、リョウジロウ!」
 リョウジロウは首を振りながら肩をすくめた。
「ったくよお、仕方ねえなあ。部外者が口出しするのは気に食わないがよ、社長とメイコのためだから仕方なしにおまえと勝負してやるよ! だが、覚悟しとけよ」

 こうして、話は冒頭に戻る。
 俺は最初の一時間で銀行から金を下し、例のクレーンゲームの店を探した。そして次の二時間でクレーンゲームからロロックスの腕時計を仕留めたのだ。

 

-ラブコメ

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