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ラブコメ

恋シミュごっこ<前編>

   

とあるオタ男は、何やらアキバのクレーンゲームで夢中なようです。
どうも、メイド喫茶のメイドさんと交わした大事なお約束のためにがんばっているみたいです。
さて、メイドさんとの恋の行く末はいかに!?

 

─ 1 ─

 

「また外しちまった! ああ、チキショー!」
 俺はひたすらクレーンゲームをやっていた。
 しかも簡単に取れるはずがない難易度最高位の大型クレーンゲームに死ぬほど熱くなっている最中だ。

「くッ……またもや俺の五百円が……」
 俺は自分の財布と相談しつつ、多少の無茶は承知の上で、五百円をゲーム機に投入する。
 ちゃりん、というお金が入った音と共に、クレーンゲームからファンキーな曲が新しく流れ出した。

「お客さん、さっきからずっとやっていますけれど、そろそろ退却した方が身のためではないですか?」
 見かねた店員が話しかけてきた。本来ならばこんなことでゲームセンターの店員が客を注意するわけがないのだが、どうやら俺の行動は目に余るものらしい。
 かれこれ、二時間ほど連続でゲーム機の前で俺は張っている。
 次々と五百円玉たちは哀れにも消え去って行った。

「すみません。あともう一回やってだめだったら、今日のところは帰ります。本当に、もう一回だけ」
 本当にもう一回だけにしよう。俺の財布が本当にすっからかんになって、家に帰れなくなる前に。

 ちなみに今、俺が熱中しているクレーンゲームは、高級品を取るためのゲームである。秋葉原のゲームセンターでもあまり数が設置されていないレアなクレーンゲームだ。このゲーム機には、ロロックスの腕時計、ダイヤモンドの原石、メリメスの鞄など、通常ならば万札を何枚叩いてもなかなか買うことができない高級品の数々が景品になっている。
 俺は最後の五百円玉を入れ、複数回チャンスがあった最後の一回に臨んだ。

 全神経を集中させる。
 周囲から雑音がだんだんと消えていく。
 俺は恐る恐る、前方に進むボタンをじっくりと押す。
 ゲーム機のガラス越しに斜め四十五度の角度から、横に進むボタンをカニみたいに前進。

 うむ。間違いなくこの位置だ。
 ここでクレーンを落下させれば、ロロックスの腕時計に今度こそひっかかる。
 しかも先ほどの度重なる失敗によって、ロロックスの腕時計は徐々にゴール地点の穴の付近まで寄せることができた。

 無常にも、クレーンは落下して……。
 そして、ついに、最後の最後で、ロロックス腕時計の端っこを引っかけ、バランスを崩したその時計はゴールの穴に落ち込んだ。

 勝利の瞬間だ。
「やったあ、ついに取れたぞ! ロロックスの腕時計、取れたあ!」
「お客さん、おめでとうございます!」
 店員は叫びながら、手に持っていたベルを鳴らし、俺を祝福してくれた。

 と、いう感じで、俺は苦労してクレーンゲームをプレイした果てに、ロロックスの腕時計という高級品を入手したわけだが……。
 なぜ、こういう展開になっているのか?
 これには、深い訳がある。
 話を三時間前にまで遡(さかのぼ)ろう。

 

-ラブコメ

恋シミュごっこ 第1話第2話