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SF・ファンタジー・ホラー

あの日に戻りたい

   

叔母さんに頼まれた夕飯の材料を買い込み、僕は叔母さんの研究所兼自宅へと続く坂道を、自転車を押しながら上っていった。人使いの荒い叔母さんは、またヘンテコな研究を始めたらしい。今回は実験台にされなければいいんだけどな……。

 

 夕飯の材料をスーパーで買い込み、僕は研究所へと続く坂道を、自転車を押しながら上っていた。
 この坂を上りきった、見晴らしの良い丘の上に、僕の叔母さんの研究所兼住居がある。真っ赤な夕日を横から受け、その光の眩しさに目を細めながら自転車を押す。こんな不便なところに研究所を建てるなんて……と、以前叔母さんに向かって愚痴をこぼした事がある。叔母さん曰く「ここから夕日に染められた街並みを見下ろしていると、この街を破壊したいという衝動に駆られてしまうのよね。破壊と創造。これこそが研究者にとっての永遠のテーマなのよ」という事だそうだ。研究者というのは、一般人とどこか違う感性を持っているのかもしれない。
 買い物袋を両手に抱え、研究所の門の前に立った。

『シバラクオマチクダサイ……タダイマ データノショウゴウヲオコナッテオリマス』

 門のところにあるスピーカーから、機械と人間の声を合成したような声が流れた。

『ショウゴウカンリョウイタシマシタ アサダケンタ サマ イラッシャイマセ』

 研究所に入るためにはこの場所に立って、あらかじめ登録された認証データとの照合を行わなければならない。時々面倒に思う事もあるが、いちいち呼び出さずに済むし、今日みたいに両手が塞がっている時には意外と役に立つ。僕は認証後に開いたドアへと入った。
 ドアを抜けると一本の通路が真っ直ぐ奥へと続いている。通路の両側にドアはなく、ただ延々と壁だけがある。叔母さんがいる研究室までは一本道だ。
 床は『動く歩道』のように常に動いていた。ただ普通と違うのは、その流れが逆である事だ。普通の倍以上の時間をかけて通路を歩いていかなければならない。どうしてこんな事をするのかと尋ねたら『少しは運動しないと身体に悪いでしょ?』だそうだ。別にこんな所で運動をしなくても、クラブ活動でいつも汗を流しているんだから……と心の中で愚痴をこぼしながら、僕はこちらへと向かって流れてくる床の動きに負けないように、着実に歩を進めた。

「一分十三秒! いつもより二十秒も遅いわよ。最近たるんでるんじゃないの?」

 パソコンの画面から目を離さず、叔母さんは僕に向かって辛口の評価を下した。

 

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