幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

歴史・時代

東京探偵小町 第三話「にわか雨」 <4>

   

「お願いです。今夜一晩、あたしをここに置いて下さい。あたし、父さまみたいな、立派な探偵になりたいんです。そのために、今夜ここで、自分を試してみたいんです」

小説版『東京探偵小町
第一部 ―怪盗編―

Illustration:Dite

 

 警視庁・強力犯係の道源寺警部は、予定より七分ほど早く、銀座の松浦時計店に到着した。道源寺到着の一時間ほど前から六人体制で出入り口を固めている巡査たちに声を掛け、部下の柏田巡査長を伴って店内に入る。すると、先に店内に配置されていた巡査たちが、一斉に姿勢を正して敬礼した。
「うむ、ご苦労」
 居並ぶ部下たちに声を掛け、目当ての人影を探し――やがて道源寺は、店内の片隅に九段坂探偵事務所の若者たちを見出した。
「やあ、久しぶりじゃないかね。内山くんに、滝本くん」
 彼らに会ったら、どう声を掛けようか。
 ここに至るまでの道中、ふさわしい言葉はないかとずっと思案していた道源寺だったが、結局は平凡極まりない挨拶を繰り出すに留まった。
「お久しぶりです、道源寺警部」
 道源寺と柏田の姿を認めた倫太郎が、巡査たちの輪を掻い潜って、即座に挨拶を返す。その少し後ろにいつもの木刀を担いだ和豪が控え、彼らに挟まれるようにして、小柄な少年が立っていた。道源寺は注意深く、その少年を見つめた。
「道源寺警部、その節はいろいろとお力添えを頂き、本当にありがとうございました。柏田さんにも、大変お世話になりました」
「いや、わしは何もしとらんよ」
 道源寺がこうして倫太郎や和豪と顔を合わせるのは、朱門の葬儀以来だった。何度も様子を見に行こうと思いはしたものの、多忙な日々がそれを許さず、直属の部下である柏田を、初七日のあたりに名代にやっただけである。だが、柏田からの報告にもあった通り、朱門という大きな柱を失いながらも、この二青年は力を合わせて、なんとか踏ん張っているようだった。
「ところで……まさかそこにいるかわいい坊やが、例の『探偵小町』だとか言うんじゃなかろうね」
「この格好は、アヴェルスを捕まえるためのものなんです。道源寺警部」
 かわいらしくも凛とした少女の声が、道源寺の耳を打つ。
 彼女が亡き朱門の長女・時枝であることは、わざわざ確かめるまでもなかった。数年前に一度、朱門と父子二人で映っている写真を見せてもらったことがある。そのときから比べると、時枝はまぶしいほど美しい乙女に成長していた。
「はじめまして、永原時枝です」
 時枝が倫太郎の隣に進み出て、帽子を取る。
 道源寺も一歩前に出て、それに応えた。
「警視庁の道源寺だ。あんたの亡き父君とは、時に相棒、時に商売敵であったかな」
「はい。父さまから、お噂はかねがね」

 

-歴史・時代

東京探偵小町 第三話「にわか雨」< 第1話第2話第3話第4話

コメントを残す

おすすめ作品