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ミステリー・SF・ホラー

聖夜に祈りを 後編

   

こじれるふたり、素直になれないふたり。
こんなにも離れることは今までになかった。
その気持ちを紛らわすように仕事をするまりあだが、無意識にユーリを求めてしまう。
そんなふたりが再び21世紀のとある時代にやってくる。
時期はちょうどバレンタイン真っ只中、そのイベントに便乗して…

 

 タイムマシーンを機動させるには、幾多の方法があるが、それらを使用する側が登録する必要があり、既に使用登録されている方法は使えない。
 今いる未来から過去に行くときは、据え置き型のタイムマシーンの中に入って、指定した時代に向かうことができるが、向かった過去にはタイムマシーンが存在しないので、持ち歩ける携帯型や一定の法則で機動するようアンドロイド側に組み込む方法がある。
 まりあの相棒はアンドロイドなので、ユーリがどういう法則で帰還するのかの選択をする。
 キスをするとタイムスリップする法則を選択していたことを、あえてまりあに告げずにいた。
 もし彼女がそれを知っていたら、あの時、キスを拒んでいたと思われる。
 もちろん、クリスマスを満喫したいという願望が叶った上での状況なら、こんなことにはならなかっただろう。
 一度も振り返ることなく去っていくまりあの後ろ姿を、ユーリは黙って見送った。
「いいのかい、追いかけなくて」
 そう訊ねたのは、出迎えた技術者のひとり。
「いいんです。騙したのは本当ですから」
「彼女、クリスマスイベントが盛んだった時代で体験したいって言っていたからね。このタイミングだと、体験できなかったんだろう? ユーリのその破損状態も体験できなかった理由のひとつだろうが……」
「ええ、まあ。僕が至らなかったせいで、彼女の楽しみを奪っちゃいましたから。せめて、少しくらい恋人らしいことを……って思ったら、キスくらいしか思いつかなくて」
「結果的によかったんじゃないかい? ユーリの場合、修理したいから戻りたいと強く言えないだろうし。とにかく、救護班を呼んだから、メンテナンスと修理、しっかりしておいで。まりあに伝えることはあるかい?」
 ユーリを気遣う研究者は、無精髭が生えている顎をさすりながら聞く。
「いいえ、お構いなく。きっと、怒りが収まれば、まりあちゃんの方から寄ってくると思うので。昔から、自分から僕を遠ざけても、結局まりあちゃんの方が折れてくるんですよね。大半は僕の方がすぐ折れるのですけれど、そうもいかない時もあって……」
「ま、何でもはいはいと聞き入れるだけが物わかりのいい男ってわけじゃないさ。にしても、難儀な性格をしているよな、あんたらは」
 ふたりの性格を熟知しているのか、軽く肩を竦める。
 そんな頃合いに、やっと救護班が到着をして、ユーリを連れて出て行った。

 

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