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異世界ファンタジー

水面の国 4

   

欠けた記憶が戻った後に目覚めたのは、遠い遠い日の記憶
雅の前世の記憶だった

自分が誰であったのか
なんの為に転生したのか

長く続く敵国との戦いの記憶

全てを知った雅は…

 

6章【前世の記憶】

 
 
「もう、無理です。せめて、姫と騎士殿だけでもお逃げ下さい」

 深手を負っているほどではないが、ところどころ血を滲ませた男が、閉ざされた部屋に飛び込んで来た。

「民を切り捨て、私だけ生き残れと?」

「手早く言えば、そうなりますわね」

「術師である、あなたまでも、それを口にするのですか」

「仕方ありませんわ。姫君の血を、むざむざ渡すわけにも、途絶えさせるわけにも、いきませんもの。いずれ、再建できる時がくるまでは――そうですわね、杜?」

 姫と呼ばれた者と、術師と呼ばれた者の会話の矛先が、杜と呼ばれる者へと移る。

「術師のおっしゃる通りです、姫。この僕が、騎士の名にかけてお守り致します。ここは一旦引きましょう」

「杜――私とて、騎士の端くれですよ」

「――それは昔、姫を継ぐ前でしょう?」

「自分の身ぐらい、守れる。だから、ひとりでも多くの民を救って――」

「姫――」

 威厳ある言葉に、誰も意義を唱えることが出来なくなる。

 誰だって、仲間を見捨てたくはない。

 出来れば、ひとりでも多く救いたい。

 しかし、人ひとりの力には限界があるというもの。

 時には、辛い決断を迫られる。

 それでも姫と呼ばれた者は、諦めたくはなかった。

 些細なものにでもしがみついてでも、意見を変える気はない、そういう強い眼差しで皆を見渡した。

「承知、姫のお心のままに――」

「杜?」

 姫の意思に同意した杜、それに納得がいかない術師。

 しかし、まもなく術師も同意するべく頷いたのだった。

「昔から、頑固なおふたりでしたものね。仕方ありませんわ。私がここで道先案内を致しますので、各々で逃げ切って下さいませ」

「環、恩にきる。だけど、あなたも来るのよ? 私の元に」

「はい、雅姫。交わした約束、この身が滅んでもまっとう致しますわ」

 環と呼ばれた術師は、数人の腕利き騎士と、この部屋に残る。

 ひきつめた水の中に身を投じ、呪文を唱える。

 水が光だし、命が宿ったかのように、自在に動きだした。

「これで、生存者への伝達準備が整いましたわ」

 その言葉が号令となり、残りの騎士と杜と呼ばれた男、雅姫と呼ばれた少女が勢いよく飛び出していった。

 

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